[306]急増する国際詐欺

 2004年12月10日号「気配り名人は詐欺をも防ぐ」で触れたように JETRO(日本貿易機構)のニュースレター(メルマガ)で貿易アドバイスのコラムを執筆するのも私の仕事のひとつです。そもそも私の記事は日本の貿易の初心者あるいは経験があっても決まった商品を決まった相手と繰り返して取引しているような方を対象にアドバイスするものですが、この公的機関によるニュースレターはネイティブの方により英訳され海外へも発信され、しかも海外の読者のほうが圧倒的に多いことから配慮も必要です。まずは外国人により日本人が被害を受けているという構図を強調するような書き方は外交上避けねばなりません。逆に日本人の弱みを詳細に記述すると日本人の恥さらしでもあり、また外国人に悪利用されても困ることになります。ところが、「日本人の考え方や行動様式がよくわかって役にたつ」と外国人からファンレターをいただいたりするので複雑な気持ちにもなります。
 上記のコラムでは国際詐欺に関する話題をたびたび取り上げざるを得ませんでした。私のことを詐欺の研究家と勘違いしている読者もおられるのではないかと思うくらいです。国内でも振り込め詐欺があれほど注意喚起されているにも関わらず被害が減らないのと同じように国際的な詐欺の被害に遭うビジネスパースンが後をたたないのです。多額の現金を現地に持参し、取られた上に殺害までされるというケースは珍しくなくなりました。
 詐欺師というのは「金銭欲」や「功名心」を巧みについてきます。また上手に乗せられ自信過剰になったり、相手を信じこんでしまったりすると他人からの忠告や意見をなかなか受け入れらなくなります。だまされた人は異句同音に「相手を親切な良い人だと思っていた」「いよいよ自分にも運が向いてきたと思った」そうです。無邪気と言えばそれまでですが、自分の都合が良いように話を解釈しすぎるあまりに不自然さに気付かないのではないかとも思えます。「労せずして多くの利益が出る」ことや「相手にまかせておけば自分の利益になるようはからってくれる」ことは世の中にそうそうないからです。
 私自身はまず「どうして相手を信じられるのか」という分析をしています。「信用調査をして問題がなかった」「業績の良い上場企業である」「社会的な地位が高く詐欺行為はできないはず」「事件がおきたら仲裁してくれる人物や機関を知っている」などなどです。もちろん相手が騙っていないか、その企業の実態があるのかも調べます。次に取引形態に不自然さがないか、いろいろシミュレーションをして最悪の事態に陥ったらどう対処するのかも考えておきます。また、ずっと取引をしていて気心が知れていても手抜きせず、気も抜かず、おつきあいをすることにしています。惰性からは良い仕事は生まれず、勝手な思いこみは相手の変化に気付かず墓穴を掘ることもあるからです。
 最近ビジネス仲間の間でいつも話題になるのはスパム・メールの多さです。詐欺に遭うというよりも業務の効率を著しく劣化させています。企業のサーバーもウィルス駆逐ソフトもセキュリティがどんどん厳しくなり、必要なメールまでもスパム・フォルダーに収納されているときがあります。おかげでスパム・フォルダーの中味を目を皿のようにしてチェックしてから削除せねばなりません。受信すらしてもらえない場合はメールをプリントアウトして FAXすることもあります。「これからはメールをしましたから届かなかったら言ってね、といちいち電話しなくちゃいけないわね。」と冗談まじりに JETROの友人。これぞまさに本末転倒。著名IT企業、銀行、国際宅配便などの企業を騙ったスパム・メールも多いので読者の皆様もくれぐれも注意なさってください。
河口容子
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[305]アセアン横丁での再会

 「当社は東京インターナショナル・ギフトショーに出展いたします。私も日本に行きますのでぜひ当社ブースに起こしください。」というメールをくれたのはベトナムの商社勤務のN部長。2007年 9月13日号「在日ベトナム人の目」に登場するハノイ在住のキャリアウーマンです。私にとってハノイ出張は彼女との楽しいひとときが必ずあり、また彼女が東京へ来れば私と会わない事はない、そんな仲です。
 ギフトショーでは海外出展者は各国の貿易機関がまとめて場所を借り、企業に割り当てる方式を取っているところが多く、今年は初めて会場に「ベトナム・パビリオン」の看板が高々と挙がりました。彼女と部下の新入社員の男性に挨拶をすると、まずはブース内のディスプレイの修正。日本人の来場者はなかなかブースの中へ踏み込まないので、日本人の興味を引きそうなアイテムを通路側に移動し、色や大きさのバランスも考えて配置します。
 彼女に昼食をおごるからと約束していた私は別の棟のイタリアン・レストランへ。二人で食事をするのは初めてです。「私が日本に来た日に福田さんが首相を辞めました。ベトナムでは途中で首相が辞めるなんてことはありません。」「日本は首相が辞めたって別に困らないんです。いいような、悪いような。」「そうね。日本はみんな、それぞれ一生懸命働いていますからね。困りませんね。」こんな時代に首相になるには覚悟がいります。強い心と実力を兼ねそなえた人は政界にいないのでしょうか。
 「今年は人が少ないです。」「日本は景気が悪いのですよ。」「ブース代 9平米 4日間で 360万円です。」「香港のギフトショーも同じくらいでしょう?でもあちらは人がたくさん来るし、その場で発注がもらえるわね。」「だから、日本へはもうほとんど出て来れないです。」そう思うのは彼女だけではないでしょう。
 「そうだ、私昇格したんです。ふたつタイトルを持っています。副社長と会長です。」「まあ、すごい。おめでとうございます。じゃあ社長さんも変わられた?」社長とは 3度ほどお目にかかったことがあります。「変わりました。」「ベトナムでは退職後はどうするの?どこかで仕事をしたり、自分でビジネスを始めたりするの?それとも遊んでるの?」「社長などの場合はだいたい監査役とか顧問で残ることが多いです。前の社長は遊んでます。」この会社は元国営企業、ハノイ本社だけで従業員 150名。もちろんホーチミン市をはじめ主要都市には支店があります。
 「ハノイでは食料品はどこで買うの?」「市場かスーパーマーケット。でも市場が多いかしら。」「洋服は?」「知り合いがお店をやっているのでほとんどそこ。」「じゃあ、そのジュエリーは?」大きなダイヤモンドの指輪 2本、時計にもダイヤモンドがきらきら。「だんなさんが買ってくるから知らない。」そのご主人は化粧品会社の社長とか。息子が二人いて、上は16歳。高校卒業後は米国に留学させる予定だそうです。典型的なキャリア・カップルの富裕層です。
 「ベトナムでは専業主婦っていないの?」「ほとんどいませんね。だって男女平等だし、働いたほうが得じゃないの。」「では、家計は誰が管理するの?」家庭によりけりです。だいたいは夫婦でそれぞれ必要な分を取って残りを共通のお金にします。」彼女は日本に来ると靴を買うのが楽しみだそうです。「革が柔らかいんですよ。履き心地が良い。」この日も銀座のデパートで買ったという1足3万円以上もするぺたんこ靴を履いていました。展示会続きで時にはヨーロッパ域内を転戦する彼女を支えるグッズのひとつかも知れません。
 ベトナム・パビリオンでのもうひとつの再会は2007年12月 6日号「ベトナムで教える、ベトナムで学ぶ」に出てくるハテイ省の竹細工の10億円企業の社長です。「先生、お立ち寄り下さりありがとうございます。」最近、ハテイ省はハノイ市に併合されたので「社長、どうですか、ハノイ市になったご感想は?」「私はハテイはハテイのままのほうが良い気がします。」「私も同感です。それぞれ特徴があって共存しているのが好きですね。それに初めてのセミナーはハテイだったので思い出の場所ですから。」
 その他、インドネシアのブースでは2006年 9月14日号「アセアン横丁のにぎわい」に出て来るカメのぬいぐるみをくれた女性。彼女のジャカルタのブティックは今も日本人客で盛況のようです。マレーシアの貿易機関の日本人職員は「さすが、この辺の顔ですね。」と私を冷やかした後、口癖の「マレーシアもうかうかしていると大変。」と来場者への説明やら他国ブースの視察と動き回っていました。アセアンの人たちがくれる元気と癒し、ずっとそのままでありますように。
河口容子
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