[282]日越ビジネスフォーラムにて

ここ 2-3年、ベトナムに関するセミナーは満員御礼どころか、だいたいは抽選で当たれば聴講できるのが普通です。先日はグエン・フー・チョン国会議長が70名のミッションを率いて来日、日越ビジネスフォーラムに運良く出席することができました。出席の盛大な拍手(出席していたベトナム人は全員起立)の中現れたチョン議長は白髪で小柄、やさしげで品の良い方でした。私自身、ベトナムに行くたびに感じるのは組織のトップの方にはやさしくて品の良い方が多い事です。有能かつ人格的にもすぐれた人がトップになるのは当然と思うものの、日本ではそういう基本的なことは忘れ去られているような気もします。
チョン議長がスピーチの中で日本との長い交流の歴史を強調されていましたが、2008年3 月13号「続 夢を紡ぐ人たち」の最後で触れたように65年前の日本もベトナム進出にわきました。当時の新聞によると大資本輸出入業者は近代的産業(造船、精米、木材、採油、化学合成、倉庫業など)へ、中級輸出入業者は開拓、綿花や麻の栽培へ、中小輸出入業者は続々と小売部門に参入とあります。ある企業はベトナム人経営のレコード会社に対し資本、技術面で参加し南方における唯一のレコード製造基地を確保したとも書かれています。日本の敗戦、ベトナム戦争とともに潰えた繁栄の復活を願う気持ちがきっと日越双方の人々に脈々と受け継がれているに違いありません。
日本からの投資額は順調に伸びています。ところが他のアジア諸国からの投資が急増、1988年からの累積投資許可額では韓国、シンガポール、台湾に次いで日本が 4位となり、投資実行額では日本が 1位、つまり実効率の高い優等生としての面子をかろうじて保っているという按配です。
たとえば在留邦人の数は 4,700名あまりなのに対し、在留韓国人は34,000人です。私自身、ベトナムの韓国系メーカーといくつもコンタクトをしていますが、中小企業でも勇猛果敢に単独で進出しています。日本の中小企業にあっては今までそこまで貪欲にならなくてすんだ「幸福」が転じて国際化が遅れた「不幸」をかみしめている気もします。
ベトナムは日本を唯一の「戦略的パートナー」と公言している以上、日本への期待も大きく、欧米とは違う視点でのリーダーシップ、つまりアジア文化と先進工業技術の共存、 ODAによるインフラ整備・制度支援、民間企業による資金・技術・経営ノウハウ、人材育成、日本市場の解放を求めています。日本国内は問題山積で大きな期待にへこたれ気味ですが、ベトナムは2006年にはズン首相、2007年にはチェット国家主席、今年はチョン国会議長と大物を日本送り続けています。さすが米国と中国の両大国を追い返しただけの粘り強さと戦略的頭脳です。
実はこの日、私が会場に着いたのは開会直前でほとんど席がありませんでした。やっと見つけた席の隣の若い女性に「この席は空いていますか?」とたずねたところ愛想良く「はい、空いています。どうぞ。」と答えてくれました。プレゼンテーションを聞いている最中やおら彼女は携帯電話と PDAを書類カバンから取り出し、左手に携帯、右手に PDAを持って同時に操り始めました。「ひょっとして日本人ではないのかしら。」と思ったのですが、先ほどの日本語の対応といい、メイクや服装といいまったく違和感はありません。そのうち隣の初老の男性との会話がもれ聞こえて来ました。彼女は日本で働くベトナム女性だったのです。その日本語の巧みなこと。となれば同じ列のラップトップPCをひざにのせてせかせかと打っていた女性もベトナム人だったのでしょう。ベトナム人は昭和30年代の日本人の気質と似ていると言われています。若い世代が圧倒的に多い人口比率のうえに、しかも理系の能力が高く、 ABU大学ロボットコンテストでは 6回中 3回優勝(日本は 1回のみ)、数学オリンピックも上位の常連です。彼らは少子高齢化、子どもたちの理科離れの進む日本を救ってくれるかも知れません。
河口容子

[281]楽しい旅は余裕から

春休みで海外旅行に行かれる方や年度の変わり目を迎え海外出張も多い時期だと思います。2004年 4月15日号で「旅の安全」について書かせていただきましたが、今回は私が特に気をつけていること、同行者にアドバイスしている事をまとめてみます。
持病のある人はもちろんのこと、薬は飲み慣れたものを持って行くことです。薬が手に入っても途上国では不安な場合もありますし、欧米では体格が違うために小柄な日本人が風邪薬を飲むと効きすぎて眠くなることといった例があります。私自身は東南アジアに行く際は消毒薬、抗菌目薬も必ず持っています。また、初めて行く国の場合、水が合わないと嘔吐と下痢を繰り返しことがあるので脱水症状を防ぐために日本のスポーツ飲料やお茶などのペットボトルを持って行くこともあります。
衣服や下着は余分に持って行くこと。汚してしまったり、ほころびてしまったり、あるいはスケジュール通りに帰れないこともあるからです。これは女性特有の問題かも知れませんが、日本と気候が異なる所へ出かける場合、用意した衣服が現地の気候風土にマッチしないということがあります。現地で買うのも楽しみですが、似合うもの、フィットするサイズがあるとは限らず、特に出張の場合はいろいろなシチュエーションを考えて余分に準備することにしています。
途上国に行かれる場合、ショート・パンツに素足、サンダル履きはやめた方が良いかも知れません。舗装したきれいな道路ばかりとは限りませんので足を怪我して破傷風になる危険性もありますし、中国やベトナムでは狂犬病も多く、脚にかみつかれ現地で病院へ収容された人もいます。
現地で貴重品をホテルのセーフティ・ボックスにしまう方も多いようですが、私はパスポートや航空券も含め途上国では常時持ち歩いています。テロや暴動に遭遇した場合出先からそのまま空港へ行き帰国できる体勢にしているのです。
ホテルの部屋は乱雑にしないこと。私はワードローブには必要以上の衣服は入れませんし、外出時はスーツケースにロックをし、スリッパなどもそろえて脱いでおきます。洗面道具や化粧品などもポーチにしまい、きちんと置いておきます。おかげで何もなくなった事はありませんし、疲れてホテルの部屋に戻った時にも気分が良いものです。
航空機の中は世界中から乗客がウイルスを持ち込むので汚いと聞いたことがあります。機内で眠る時はマスクをしています。のどを痛めることもありません。また、帰国後洗えるものはすべて洗濯し、洗濯できないものは除菌スプレーをして天日干しをしてからしまいます。
上記のような事を言うと「案外神経質なんですね。」とびっくりされたりもしますが、備えあれば憂いなし。楽しい旅は余裕から生まれます。そして多少困難なことがあっても落ちついて対処すること、最後まで気を抜かない事です。
河口容子