[274]パリの日本人

 このエッセイの読者には海外在住の日本人、まさに国際人として活躍されている方が少なからずいらっしゃいます。特に海外で起業された方には尊敬の念とともに思わずエールを送りたくなります。異文化の中で1外国人として企業を立ち上げるのは並大抵のことではないと思うからです。先日、パリ在住のビジネス・コンサルタント Nさんと銀座でお会いしました。実は2~3年からお話をいただいていたのですが、なかなかスケジュールがおリあわず、やっと実現したものです。
Nさんは大手旅行代理店に勤務されていた頃パリに駐在し、そのまま現地で MBAを取得され、フランスの政府機関でコンサルタントをされた後独立。 実は商社マンにこのパターンが機会的にも多そうに思えますがなぜか商社マンは独立志向が薄い気がします。もともと組織や仕組みを利用してビジネスをするのが得意な人たちで、ある意味では官僚的なのかも知れません。駐在地で定年を迎え、その地に残ってもどこかの企業に就職するケースがほとんどです。
 さて、 Nさんや私のような「 1人企業」のコンサルタントにとって大切なのが人的ネットワークです。自分の不得手な部分を他人に補ってもらう、あるいは他人の得手を活用して新しいビジネス・チャンスを創出することができるからです。このネットワークもただ多くの人を知っていれば良いというのではなく、信頼に足る経験や実績を持っているかどうか、自分の専門性と接点があるかどうか、思考法や価値観の大きなずれはないか、などの見極めが必要です。
 海外在住の日本人の方々は「外へ出て初めて日本の良さも悪さもわかります。日本を愛する気持ちも生まれて来るのが不思議です。」と異句同音におっしゃいます。私もその辺をお聞きするのが楽しみです。「ところでフランスの方々はふだんアジアをどのように見ているのでしょうか?ちょうど日本とは逆の方向からアジアを見ることになりますが。」「大陸でつながっているので結構感覚としては通じるものがあるのでしょう。中国人とだって日本人以上に気にしないでつきあっていますよ。アジアの工芸品だって好きですしね。特に日本の伝統工芸品はハイエンドの人たちには人気がありますよ。」「アジアの文化を理解するという姿勢はすばらしいですね。でも日本のキャラクターやアニメはアジアでは強いですが欧州市場では弱いですね。」「そうですね、ヨーロッパは大人社会ですからね。」
 「大人社会」とはなかなか素敵な響きです。では日本は「子ども社会」なのでしょうか。個々の意見や嗜好を主張できず、オピニオン・リーダーやトレンド・リーダーといった強い人に引きずられる点では子どもと言えるかも知れません。国際競争にさらされていなかったという点でも「子ども」かも知れません。大陸というのは基本的に弱肉強食の世界、中国にしても人口的には漢民族が圧倒的に多くてもほとんどの王朝は異民族による制服王朝でした。私も仕事を通して「さすが大陸の人は錬れている、芯が強い」と感じることがしばしばです。大陸的グローバル・スタンダードを日本人にいきなり押し付けたらショックが大きいことは自明の理です。
 国際競争にさらされ、日本と日本人はいつか大人になれるのでしょうか、それとも「いつまでも大人になりたくない子ども」のままでいるのでしょうか。
河口容子
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[273]5ケ国外相が揃ったメコン地域投資セミナー

 先週号「中国の輸出規制策と日本の中小企業」の文末で触れたメコン地域投資促進セミナーに行って来ました。メコン 5ケ国、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの外相がパネリストとしてそろって登場、歓迎挨拶は高村外相というものです。寒のさなか朝 9時からの開始にもかかわらず大盛況で、たまたま某大手商社の部長と隣り合わせました。私がベトナムに行く機会が多いと話すと「ひとつわからないことがあるのですが、どうしてベトナムは米国に賠償請求をしないんでしょうかね?実に大らかな国民ですね。」「それがベトナムの品格と言いましょうか。プライドでしょうね。第二次大戦中に日本軍にも 200万人犠牲になっていますが、外交上一言も口にしたことがないそうですから。自分たちが悲惨な目にあったのを餌にお金なんかもらいたくないのでしょう。」
 「ところで昨日、日・メコン 6ケ国外相会議があったのにほとんどの全国紙は伝えていないですね。今やアセアン関係ならメコン地域が最大のトピックスなのに。」と部長。このセミナーの前日に日本・ラオス投資協定が署名され、またカンボジアーラオスーベトナム「開発の三角地帯」のプロジェクトに日本アセアン統合資金から約2000万米ドルが使用されることも決まりました。ほとんどの読者の方は何もご存知ないことでしょう。一般メディアが取り上げないからです。2005年の 2国間 ODAの実績は上記 3ケ国合計で約 800億円、原資はもちろん皆様の税金です。
 「最近のメディアは時代を見る目がないというか、売上第一主義に陥っているというか、中国の輸出規制についてだってほとんど何も報じてはいないではないですか?中国のおかげで生き延びた中小企業には大打撃でしょう。」と私。「それは自業自得というものですよ。無手勝手に出て行っただけですから。だまされて損している人も多い中、儲かっただけでも良かったと思うしかないでしょう。」と部長。私自身が大手商社に24年も在籍したのでよくわかるのですが、大手企業は奇妙に政府と似たところがあります。要は体力のない中小企業はそろそろ退場しなさいという事なのでしょう。
 このメコン地域にすでにどのくらいの日系企業が進出しているかというと2006年の統計でタイ 1,294社、ベトナム 604社、ミャンマー58社、ラオス38社、カンボジア35社です。在留邦人数でいうとタイに40,249人、ベトナムに 4,754人、ミャンマーに 605人、ラオスに 442人、カンボジアに 878人。メコン 5ケ国への日本人渡航者数は年間約 189万人です。予想より多いと思われた方が多いのではないでしょうか。
 「拡大」メコン地域には上記 5ケ国に中国の雲南省、広西省も含まれるので西ヨーロッパとほぼ同じ面積に約 3億2300万人の人口がいます。2015年にはこの地域が道路網、通信網、電力網できちんとつながるように計画されています。単に人件費が安いから生産拠点として利用する、というのではなく、市場としてもとらえられる企業、単一国でなく複数国での特徴を生かした展開ができ、その地域にとって感謝され必要とされる企業がこれから勝ち残っていくような気がします。前段で述べた数字からも小規模企業であっても日系企業や在留邦人のためのサービス業は需要があると思われます。
河口容子
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