[272]中国の輸出規制策と日本の中小企業

 中国は「貿易黒字削減のための輸出抑制」、「環境保護」、「ハイテク企業誘致」、「労働集約型企業の淘汰」、「高電力消費企業の退場」を促すために昨年の秋から「加工貿易禁止品目」と「増置税」に関する合計4つの通達を出しています。また、一部輸出関税の増加の通達も別途あり、さらに輸出を抑制しようとする動きもあります。ちなみに中国の2007年の貿易黒字は 2,622億米ドル(約30兆円)です。
 加工貿易とは材料や部品を外国から輸入し、それらを加工して輸出するもので、材料や部品の輸入については免税輸入するのが原則です。加工貿易禁止品目でも一般貿易なら良いということですので、材料や部品輸入に関する関税を支払えばビジネスは継続できるものの当然のことながらコストは上がります。中国からの輸出については一般貿易の額よりも加工貿易の額のほうが多いので、輸出の際海外にコスト増を価格転嫁できない場合、その中国企業は廃業せざるを得ません。
 もうひとつの増置税とは日本の消費税の運用とよく似ています。日本では輸出取引は免税取引で、その取引のための仕入に係る消費税が全額還付対象となります。ところが、中国の場合は品目により増置税の還付率が変わります。つまり、政策上好ましい産業については還付率が大きく、好ましくない産業については還付率が低い、もしくはゼロとなります。これも当然、還付率が低い産業についてはコスト増となります。
 昨年訪問した広東省東莞市にある韓国系のぬいぐるみ工場によれば、労働者不足、人民元高のみならず、労働法も改正され人件費のみで今年から30%増となったそうです。従来からベトナムでも操業していたので、今年は主力製品の製造をすべてベトナムに移管することにしたそうです。この企業のようにすぐ移転するあてがある企業は良いものの、いわゆるファブレスで自社工場を持たず、中国の提携工場に生産してもらい日本市場で販売している日本の中小企業はどうするのでしょう?中国生産にこだわるなら値上げをのむしか方法がありません。特に労働集約型産業は沿岸部からどんどん内陸に入っていくため輸送時間やコストもかさみます。これらのコスト増が消費不況の日本でどこまで消費者に受け入れられるかが問題です。
 中国に代わる生産国としてベトナムをあげるビジネスマンが多いものの、たとえば雑貨については戦争や紛争が長く続いたため、まだ裾野産業が十分に発達していません。また、中国と比べると輸送距離も長くなり時間とコストがかかります。ベトナムの人件費は中国にくらべかなり低いですが、部品数が多く、短期間に少量多品種展開をしなければならない婦人用のバッグなどはかなり厳しいものがあります。一方、ベトナムの主要輸出品目でヨーロッパ諸国へ輸出実績のある靴などは大いに可能性があります。
日本の中小企業にとっても体力を問われる中国の輸出抑制策。カンボジア投資ミッションはあっという間に定員に達し、メコン地域への投資セミナーも 250名の出席者は抽選。この地域への進出が他国に比べて遅れていた日本の中小企業にも正念場がやって来ました。
河口容子
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[271]年賀状は文化

 家庭では年々クリスマスのデコレーションが華やかになるのに比べ、伝統的なお正月風景はどんどん失われていきます。今はお正月でなくてもきれいな服装、おいしい食べ物などに取り囲まれているので「楽しみに待つ価値」が減ったのかも知れません。そんなライフスタイルの変化の中でインターネットの発達で存亡が危ないと一時思われた年賀状が意外と残っているのはなぜでしょうか。新聞によれば元旦に配達された年賀状は20億枚とか、平均すると国民の 1人 1人が20枚弱ずつの年賀状を受け取る勘定になります。
 2004年12月16日号「季節の挨拶」でも年賀状の良さについて触れましたが、年賀状は日本独特の文化になっていると思います。昔の年始まわり、つまり新年の挨拶にお宅を訪問するかわりに年賀状を使うようになったのが始まりで、お年玉つき年賀はがきが発売されたのは1949年ということですから戦後の長い平和が育んだ文化ともいえます。お年玉つき年賀はがきが通信手段としての本来の機能をはたすと同時に「くじ」になっていて、宝くじのように買った人が当たるのではなく、もらった人が当たるシステムも「福のプレゼント」として長続きしている理由だと思います。
 各国の季節の挨拶状(クリスマス、新年、旧正月など)と比べての大きな違いは「はがき」という形式です。はがきは差出人にとって費やす時間も費用もミニマムですみます。企業の広告を兼ねたものから家族写真入りのプライベートなものまではがき 1面に実にさまざまなメッセージをこめることが可能です。また、受取人にとってもはがきゆえに家族や職場で回覧することができるという利便性は封書であるカードに比べて非常にメリットがあります。サイズが定形であるためそのまま保存して住所録がわりにしている方も多いことでしょう。元旦に配達できるよう年末に出状したものを郵便局がプールしておいてくれるのもユニークなサービスといえます。
 年末に「あけましておめでとう」と書くのは嘘っぽくてただの虚礼にすぎないという方がいらっしゃいますが、これは差出人側からの一方的な発想にすぎず、受取人がお正月に挨拶を受けられるように事前に準備をするという配慮と考えればまったく不思議ではないと私は思います。
 私のような年齢になると年賀状だけのおつきあいの方がふえます。20数年前の上司、先輩、数回しかお会いしたことがない方など、お互いに几帳面な性格なのかえんえんと年賀状の交換が続いています。70代、80代になられている方も多くお元気で毎年私の事を思い出してくださることを大変ありがたく、懐かしく拝読しています。現役中は困るほど年賀状は多かったのに、リタイアすると年賀状も年々減って不安になる、とおっしゃった方がいらっしゃいます。目先の利益だけのつきあいが多い日本人のドライさを象徴していると言えますが、リタイア後の社会との係わり合いかたの鏡とも言えるのではないでしょうか。
  1月 2日にベトナムの政府機関の長官から年賀カードをいただきました。ベトナムの太宗は日本と同じ大乗仏教徒ですからクリスマスカードではありません。おそらく元旦ごろに着くよう緻密に計算して投函されたのでしょう。私はベトナムのかたがたには和紙風の紙に日本の伝統的なお正月モチーフが描がかれた年賀状を用意し、切手も和風のものを選んで送ってみたのですが、どのように思われたのか機会があれば聞いてみたい気がします。
河口容子
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