[256]メイド・イン・チャイナ

 10年ほど前「中国製」と言えば「安かろう、悪かろう」の代名詞でした。昨今は中国は「世界の工場」、その経済力により「世界最大の市場」となりました。また、ロケットを飛ばす技術すら持っています。ハイテク製品などもはやメーカー間の争いではなく「いかに国家で国際基準を取って世界市場を押さえるか」が話題になっていたほどです。
 ところが、今年の 5月パナマで中国製の咳止めシロップにより 100人以上の死亡者が出たところから「メイド・イン・チャイナ」は恐怖の代名詞へと変わります。これはグリセリンのかわりに安価な有害薬剤が使われており、しかも手の込んだことにスペインのバルセロナにいったん輸出され、そこからパナマへ渡ったものです。中国には「偽薬」もあると聞かされていましたが、有効成分が入っていない程度と勝手に解釈していましたが、現実はそんなに甘いものではありませんでした。
 その他、はみがきに有害物質、うなぎに有害物質、土鍋から鉛、玩具から鉛、毛髪のアミノ酸を利用した醤油、賞味期限切れのちまき、ペットフードからメラミン、割箸の防腐剤と防カビ剤、工業塩を食塩と偽って販売(大量に摂取すると死亡することも)、おまけにダンボール肉まんヤラセ報道事件まで加わって信用はガタ落ちです。
 実は中国政府も負けてはおらず片っ端から中国に輸入されてくる食品を摘発しています。米国産イカにカドミウム、日本産冷凍マアジとマダイにアニサキス、インドネシア産冷凍うなぎにサルモネラ、フィリピン産乾燥バナナに二酸化硫黄、ベトナム産ドラゴンフルーツにDDT、インドネシア製ビスケットにアルミニウムなどなど、まさに「やられたら、やり返せ」状態です。
 中国に対する集中砲火は単なるひがみと言う人もいますが、私は途上国にありがちな無知や当局による管理の不行き届きがほとんどで、すべてが犯罪性を帯びた悪質なものではないと思っています。なぜなら私の子ども時代には海苔巻きせんべいの海苔の部分がタール様の染料でごまかしてある商品があったり、かき氷のシロップは毒々しい色でしたし、今は禁止されている人工甘味料はたくさん使われていました。当時の消費者は絶対皆食べています。戦後から何十年もかかって日本は独自の安全基準や検査体制を構築してきたわけで、それでもいまだに国内でも賞味期限や産地の偽装事件が後をたちません。日本だってかなりのものです。
 冷静に考えるとすべての事件は業者側の「儲かれば良い」、消費者側の「安ければ良い」という経済性重視に偏った発想から来ています。また、悪貨が良貨を駆逐するが如く、違反をしなければ儲からない、だから悪は密かに伝染し、真面目にやっている業者は「高いから売れない」あるいは「儲からないからつぶれる」という構造が出てきます。ここへ来て本来一番重視すべき「安全性」へ回帰したことは健康的な経済活動にもつながるのではないでしょうか。
河口容子
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[255]女性と年齢

 女性に年齢を聞くのはマナー違反とされていますが、実際にはそうでもなく、外国人と少し親しくなれば「何歳ですか?」と聞かれることがしばしばあります。たとえば、韓国語は1歳でも年上なら敬語体を使わなければならないので相手の年齢を確認するのは珍しくないと言います。また、ベトナム語では、「チャオ アイン」と言えば年上の男性に対する「こんにちは」、「チャオ チ」は年上の女性に対して、男女関係なく年下なら「チャオ エム」と言いますから相手の年齢を見抜く術が必要です。いずれも年上の人を敬う精神や、ビジネスの会話ではどのくらいキャリアがあるのか知りたいなどという単純な理由で年齢を聞いているだけです。
 一方日本では、中高年の女性とわかれば若者からも小馬鹿にされ、詐欺商法の格好のターゲットとなるだけです。「女性は産む機械」と発言し物議をかもした大臣の発言に代表されるように、生産性重視、産まない年齢に達したら「女性にあらず」という国民性を当の女性たちも許してしまっているのはだらしない。人間は誰もが平等に年をとるわけで、「年齢の若さ」は何の自慢にもなりません。若い時は人それぞれに若さゆえに美しい。ところが、年を重ねるにつれ経験や精神的な成熟、日々の努力がなければ美しくは見えません。むしろ中高年になってからこそ個々人の真価が問われると思っています。
 自宅の近くにあるブティックの女性オーナーは私と同年齢の美人。お嬢さんは留学先のニューヨークで台湾系米国人と結婚しました。その結婚式はニューヨークで行なわれ、女性オーナーの82歳になる伯母さんも出席されたそうですが、社交ダンスが得意で華やかな装いのよく似合うこの老婦人は米国の若い男性招待客にモテモテだったそうです。外国人は年齢をたずねても、年齢を気にしないという良い例です。むしろ、彼女の日頃の努力の積み重ねやセンスの良さに魅了されエールを送ったとも言えます。
 日本では「その年になったら誕生日なんてもううれしくないでしょう?」と冷やかされる事がありますが、そんな事を思ったことは一度もありません。「10歳まで育てばあとは大丈夫ですよ。」と母が医師に励まされ、二度と子どもはほしくないと思ったくらい私は手のかかる弱い子どもでした。健康自慢だった父が40歳の誕生日を迎えて10数日で他界したのに比べ、病気も怪我も多かった私がこの年まで生きているだけでも奇跡、神様に恵んでいただいた命と思わざるを得ません。20歳や30歳の自分と比較しても私は今の自分のほうが好きです。なぜなら、経験なりノウハウが積みあがっているからです。若い頃はおしゃれをする余裕もありませんでしたが、今はありますし、年をとった分小綺麗にしなければと努力をする私がいるからです。
 目下最大の悩みは年齢よりはるかに若く見られることです。まず、仕事上では経験が不足していると見られて損をする事が多く、年齢からPRしなければなりません。健康保険証など写真のついていないもので本人確認をしようにも「ご本人ですか?」といぶかしがられる始末。相手が10歳以上年下なのに親しげな口を聞くので「失礼な男性」だと思っていたら、先方は先方で私のことを同世代と勘違いしており「生意気な女性」と思っている、というケースが時々あります。私に何かの用で来られた人が私を私の娘と勘違いしていたため、本人だと言ったところ、からかわれたと思い怒って帰ってしまった、などなど。
 実は48歳の時に広東で23歳と25歳の若者に「28歳くらいですか?」と聞かれたことがあります。一瞬、お世辞か目が悪いのではないかと疑ったくらいですが、そんなに若く見られて嬉しいというより、おそらく途上国では若さを保つための情報が少なく、意識的なゆとりも少ないのだろうと感じました。昨年、香港人の若い男性クルーに機内でナンパされかかりましたが、日本と同じ東アジアの人であっても、年齢は気にしないようです。健康管理や資産形成のために年齢を気にする必要性は認めますが、「年だから」をチャレンジしない理由にするのはやめましょう。
河口容子
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