[244]アセアン発の美と健康

 2007年 1月27日号「みかんに祈りを」で登場したシンガポールのクライアントが来日しました。2006年 5月25日号「アセアンがくれる LOHASな暮らし」で取り上げた東南アジア特有の素材を用いた化粧品や健康食品の展示会が今年も開催され、シンガポール代表企業の 1社として商談会に参加するためです。通常ならこのクライアントのお手伝いだけに専念すれば良いのですが、展示会の主催者である国際機関とは2002年からお仕事をさせていただいています。私は主催者側の目と出展者側の目を併せ持って臨んだことになります。
 シンガポール国際企業庁から出張してきた女性職員とは2度目の顔合わせです。シンガポールの出展業者をすべて私に紹介してくれました。中でも印象に残ったのは色白で大仏様のような体型に笑顔が何とも愛らしい青年。オイル状の万能薬創業者の一族です。初日は商談がほとんどなく大きな身体をもてあますようにしていましたが、最終日には大手企業と次々面談があり、一気にニコニコです。輸入するのは日本、財布はひとつですから、参加しているアセアン諸国の国家間の競争は熾烈なものがあります。シンガポールは大使館が潜在顧客の掘り起こし、大使館員による商談のサポート、とパワーを周辺国に見せつけた感じでした。
 インドネシアのスパ関連化粧品のメーカーのプレゼンテーションにも参加してみました。ちょうど渋谷のスパの爆発事故があり、「日本のスパはなぜ爆発するの?」とインドネシア女性に聞かれ、たぶん単純かつ真面目な質問だったのだとは思うのですが、皮肉とも取れてしまうほど先進国としてはお粗末で恥ずかしい事件でした。
 ベトナム大使館の商務官とも遭遇。彼の指導で自然派化粧品の会社は訪問者に積極的にカタログを配布するなどして有望な商談を次々と手にしていました。この会社の製品の中に日本語のパッケージのフットジェルがあるのですが、何と香港向けに輸出しているそうです。おそらく香港の輸入業者が日本製に見せかけるためにやっているのでしょう。「ベトナム製」と表記はされていますが、香港人はカタカナが読めませんから騙し通せる訳です。
 ブルネイからは 1社。博士号を持つ女性の会社ですが、いとも呑気でマレー語のカタログしか用意をしていませんでした。ハーブの栽培から、健康食品などの製造、小売まで全工程を彼女が仕切っています。ブルネイの人は写真好きで会社訪問などをすると必ず記念写真を撮り、フレームに入れオフィスの壁に飾っています。案の定、ここでも写真を撮っても良いかと聞かれました。彼女は雑誌の記事に載せるのだとか、そのうち私の顔がブルネイで出回ることになるのでしょう。
 さて、肝心要のシンガポールのクライアントは会期中来場者の対応に追われ、ゆっくり話ができませんでした。それでも別途 1社緊急にアポを取り付けることができたので一緒にその企業へ出向いて商談ができた事はラッキーでした。彼らが帰国する前日にメールをもらい「今回は準備段階からいろいろお世話になり、ありがとうございました。ゆっくりお礼を言う暇もなくて本当に残念です。今日は一日市場見学に行ってきます。昨日お土産を渡しできませんでしたので、フロントに預けておきます。申し訳ありませんが、今日か明日にでも受け取りに来ていただけないでしょうか?」というものでした。
 雨の中、銀座のホテルに出向くと持てないほどのお土産がありました。私もお土産を用意して行ったのでフロントに預けました。相手の感謝の気持ちがお土産に表れていましたし、「お疲れさま」という私の気持ちもお土産を通して伝わったのだと思います。夜中の2時過ぎに連絡事項やお礼のメールを2通もいただきました。彼らはシンガポールの全業種の中でブランド価値の伸び率がナンバーワンの企業です。そして東南アジアで最も成功した華僑家族のひとつとして知られていますが、 130年前から「フロンティア・スピリッツ」と「人へのやさしさ」が脈々と継承されています。
河口容子
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[243]ベンチマークとしてのベトナム進出

 先日、ベトナム商業省チャン・デュック・ミン副大臣をリーダーとするミッションが来日、貿易セミナーと商談会が行われました。ご存知のようにベトナムは今年から WTOに正式加盟し、市場解放を加速させようとしています。2006年の GDP伸び率は8.17%、輸出金額も前年比22.1%増加しました。日本向けの主な輸出品は水産物、紡績製品、木材、手工芸品、靴、サンダル、電線、パソコン、パソコン部品、プラスチック製品、石油、石炭などです。
 ベトナムにおける外資プロジェクトは約 7,000件、総投資金額(認可ベース)は約 628億米ドルです。日本からの直接投資は認可ベースで 764件、総投資金額は77億米ドルです。その中で約 340件が稼動しており、年間総売上は30億米ドル以上、10万人の直接労働者、数十万人の間接労働者の雇用につながっています。認可ベースの投資額ではシンガポール、韓国に次いで 3位ですが、既に投資された額では日本がトップです。
 外資の力を借り破竹の勢いで成長しているベトナムが「戦略的パートナー」と呼ぶのは世界で日本ただ 1ケ国しかありません。面積が日本の 8割ほどで細長く、アセアン諸国の中では最も文化的にも日本と相容れるところが多く、風貌も近いような気がします。ただまったく違うのは人口構成で現在8500万人の国ですが、30歳未満(ベトナム戦争終結後に生まれた人たち)が 7割で、中国とは違い「二人っ子政策」、10年後は 1億人になり、若い力に満ちているところから市場としても非常に有望です。私が接する限り、親日的かどうかは別として反日・嫌日感情を持つ人はまず見当たりません。
 かつてベトナムでネギを植え、安価な労働力を利用して「乾燥刻みネギ(インスタントラーメンなどについているもの)」を日本に輸出して一儲けした日本人の話を聞いたことがありますが、普通のメーカーがベトナムに工場を建てるならば日本など先進国が開発した工業団地に入らざるを得ず(標準設備を持つレンタル工場も団地内にはありますが)まとまった金額の投資を必要とします。こういった工業団地では停電に備え複数の電源を備え、風水害を防ぐ設計、排水用地下パイプライン、レストラン、給食サービス、税関、通関業者などの設備が整っているからです。だいたい日系の工業団地はすでに満杯、 1ケ所に何十社も日系企業が入り「日本村」を形成しているケースがほとんどです。彼らのほとんどは日本市場のみならず、インド、中国といったアジアの超大国やアセアン諸国の経済発展によるアジア市場の急拡大に目をつけているはずです。
 一方、いわゆるチャイナ・リスク?電力不足、人手不足(定着率が低い)、人民元高、人件費の高騰、政治的不信、反日運動など?を懸念して、自社工場を持つレベルではないものの調達先を中国からベトナムへ(一部でも)シフトしたいという中小企業もふえています。しかしながらベトナムでは周辺産業が発達途上であり、ベトナム国内では素材が整わないものもあります。中国と比べれば距離も遠いので、輸送にかかるコストも時間もかかり、腰が引けてしまうのがほとんどです。特に商品のライフサイクルが短く、少量多品種展開が必要な業界においてはリスクを知りつつも中国頼みをしなければならないようです。そういう企業に限って万一に備え、ベトナムで準備を始めるという余力もありません。
 だまされもしながら中国生産のおかげで生き延びてきた日本の中小企業も少なくないと思いますが、「ベトナム(ないしは中国以外のアジアの国)へ進出できるかどうか」が各企業にとっての真の国際化のベンチマークだと思います。
河口容子
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