[242]OECDが推進する中小企業の国際化

 先日、OECD国際カンファレンス「グローバル・バリュー・チェーンにおける中小企業の役割強化」が 2日間にわたり東京のホテルで開催され、最終日だけ出席しました。
 まず、OECDとは経済協力開発機構の略で現在30ケ国が加盟しており、欧米以外の国は日本、韓国、トルコ、オーストラリア、ニュージーランドだけです。世界レベルの生産工程再編により中小企業のビジネスチャンスが拡大する一方困難な課題ともなっている現状からOECDの中小企業作業部会が 3年にわたって調査、分析した結果の発表会がこのカンファレンスで、最後に「東京声明」が採択されました。
 初日は大企業と独立関係または提携関係にある中小企業が下請け業者やサプライヤーとして際立った存在となっている自動車産業、精密機械産業、ソフトウェア産業、観光産業、映画制作・配給産業についての分析が行なわれ、 2日目は政策テーマ別のセッションで、イノベーション及びテクノロジー、知的資産及び知的財産権、連携、ビジネス環境というテーマです。どの国においても企業の圧倒的多数が中小企業であり、中小企業の国際化はその国の経済発展や活性化と直結する課題です。
 私自身は国内外の中小企業の国際化をお手伝いするのが仕事ですが、日本の中小企業の国際化は、国内市場での競争力拡大のためのコスト削減を狙った海外生産および納入先の大企業の海外進出に伴うものが圧倒的に多く、自社製品を単独で海外市場に出すという点では非常に弱いと思います。私の会社は海外の政府機関や民間企業をクライアントに多く持っていますのでサービスを海外に売っていることになりますが、日本の同業者でもこのパターンは意外と少ないものです。
 最終日だけ出席した感想ですが、一口に中小企業と言っても規模や業態はさまざまです。莫大な費用をかけたイベントと推察する割には理論的には納得できても具体的なイメージがわいて来ないのは私だけだったのでしょうか。日本の国策としては、企業数を減らすというのが大前提で国際競争力を高めるために大企業同士の合併や業務提携が増加しているのはご承知のとおりです。これに伴いリストラされる人材の救済策と新しい産業の創出を狙いとして起業のすすめがありますが、特段の優遇策、支援策がある訳ではありません。中小企業は既に二極分化しており、ユニークな商品やサービスを持たず、小回りもきかないとなれば残念ながら消え行くのみです。また、中小企業間の連携という意味では同業者組合がありますが、一丸となって「守る」もののあとは懇親会レベルで、「攻め」には各社の足並みが揃わないという脆弱性を持っているような気がします。
 OECDの方が「中小企業の国際化」を「娘を芸能界に出す」という言葉にたとえて出席者の笑いを誘いましたが、想像もしなかった事が次々と起こり、リスクとロスを覚悟しなければいけない反面チャンスも無限にあるという意味だそうです。私の経験から言わせてもらえば、中小企業の国際化は芸能界へ行くかどうかより切羽詰った課題であるかわりに慎重に行なえばそれなりの成功は得やすい点が違うような気がします。
河口容子
【関連記事】
[52]女性の大学進学率

[241]イタリアン・シンガポリアン

 シンガポール国際企業庁から依頼され日本進出を希望するシンガポール企業をお手伝いするようになって約1 年たちます。まずは経営者の方と直接お会いしたり、メールでコンタクトをし、可能性につきお話をすることからスタートします。多民族の都市国家とあって、上場企業であっても日本でいうところの大企業はほとんどありませんし、経営者が創業者ないしはその一族というケースが多く意思表示が明確でスピーティです。また、歴史的に欧米、中国、インド、アセアン諸国とのつながりが深く、地理的にもオーストラリア、ニュージーランドまでカバーが可能ですので、小さい企業でも国際的にビジネス展開をしています。その一方、日本のビジネス慣習や市場の特性の情報がまだまだ少なく、戸惑ったり、じれったがったりの連続です。
 今回はシルバー・ジュエリーの会社の社長が来日しました。イタリア人のお名前だったので「純粋なイタリアの方ですか?」とお聞きすると、ローマで生まれ、ナポリ、ヴェネツィア、カリフォルニアで教育を受け、シンガポールで起業、もう住んで18年とのことです。事業を日本のみならずイタリア、オーストラリア、マレーシア、インドネシア、ベトナムへ拡大しようとしています。土着根性の強い日本人から見ればローマ帝国やマルコ・ポールの末裔、何と国際人であることか。中には「放浪癖」とやっかむ人もいるかも知れませんが。
 日本人で複数の外国で仕事をしたり住んだ経験のある人は外交官や駐在員のように所属する組織の命を受けて行くケースがほとんどで、海外で起業しそれを他国へ広げようとする日本人は数えるほどしかいません。日本人はもともと「リスクを取ることに弱気」あるいは「保守的で安定を好む」傾向にあるのかも知れません。
 別の観点から私が興味を持ったのはシンガポール国際企業庁という政府機関がイタリアから来た起業家を支援していることです。以前、香港貿易発展局に韓国系のメーカーを紹介していただいた事がありますが「韓国人の企業でも香港に法人があるから遠慮しないでください。喜んでお手伝いします。」と言ってくれました。日本も最近やっと外国からの資本誘致ということで外国企業のためのサービスを強化していますが、それまでは日本に現地法人があろうと日本の政府機関がサポートする対象ではありませんでした。
 シンガポールは75%が中国系、14%がマレー系、 9%がインド系、残りがその他という人口構成になっています。上記のイタリア人経営者は「その他」の組に入りますが、私が契約をしているリサーチ・コンサルタント会社の社長は客家系にマレー系やタイ王室の血がまざっており、2007年 5月31日号「東洋医学の再発見」で触れた漢方薬メーカーは広東人の一族です。日本人でもシンガポールに住み起業している方を何人か知っています。国際都市香港でも95%が漢民族ですからシンガポールはまさに百花繚乱といった感じです。
 このイタリア人も「シンガポールはいろいろな国の人と人脈ができ交通の便も良いので国際的展開する起業にはうってつけ。でもある日突然海外に簡単に出て行ってしまう人も多いから。」とぼやきました。私自身も起業当時はジャカルタで華人である友人とその知人たちとニュー・ビジネスを計画していたのですが、ある日突然知人たちは家族そろってカナダへ移住し、友人のほうもニュージーランドに移住した時の事を思い出しました。彼らは皆現地でセレブな暮らしをしていただけに白人優位の先進国へ行けば困ることも多いと察します。この辺りの決断力と行動力は日本人である限り理解し得ないものがあります。
河口容子
[関連記事]
[239]東洋医学の再発見
[227]シンガポールで報じられた日本の年金離婚