[226]VTICsの魅力

 ひところ、経済界ではBRICs の話題でもちきりでした。BRICs とは経済発展著しい、ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を取ったもので、最後のsは複数形、もしくは南アフリカをさすと言われています。いずれも大国かつ資源国で、大国主義、つまり数の多さを優位とする考え方を声高に唱えるのは好ましくないことと思っていました。それに、ブラジルは長い移民の歴史があるものの日本からはあまりにも遠く、ロシアとインドは文化的には馴染みがあっても経済面ではいまひとつぴんと来ない日本人が多いのではないでしょうか。
 最近出て来た用語はVTICs、ブラジルとロシアをはずして、ベトナムとタイを入れたアジアの経済発展国をさしています。ベトナムもタイも日本からの投資が多く、観光客も多く訪れているのでこちらは多くの方がイメージしやすいし、大国と小国の長所短所をバランス良く比較できるような気がします。
 タイについては日本の大手企業の投資は一巡しており、電気電子産業、機械・金型産業にターゲットを絞り、これらの産業が集積する日本の地方都市を巡回して投資セミナーが行われています。昨年のクーデター以来の政情不安と通貨の高さ、日系企業どうしの競争もすでに出始めています。
 一方、ベトナムについては昨年安倍首相就任後の第一号国賓がベトナムのズン首相であり「日本はベトナムをアジアの平和と繁栄の戦略的なパートナー」とする声明が出されました。近年、ベトナムにとって日本は大きく、誠実な投資国であり続けましたが、昨年の秋、韓国の高炉メーカーである POSCOが11億ドル強を投じて熱延広幅帯鋼工場を建設する計画を発表し、ベトナムにとり韓国がダントツの投資国になりました。すでに冷延広幅帯鋼工場が建設中で、材料となるスラブはPOSCO がインドに高炉―転炉―連続鋳造設備を作り、そこからベトナムへ供給し、不足するものは韓国から供給というスケールの大きさです。韓国は中小企業のベトナム進出もさかんで、まさに国家ぐるみでベトナムを取りこんでいるかのように見えます。
 タイ、マレーシア、インドネシアの 3国とそれぞれ摩擦を抱えているシンガポールもベトナムに急接近。中国リスクを嫌気した台湾企業もベトナムにシフトを始めています。マレーシア政府機関に勤務する日本人によれば「これではベトナムにすら負けてしまう」と国家をあげての産業政策の見直しがマレーシアではダイナミックに進んでいるそうです。一方、日本は、広東やタイで操業している日系企業をベトナムに誘致するというもので現地でベトナムへの投資セミナーが行われています。2012年までのプロジェクトとしてアジア開発銀行の手ですすめられている拡大メコン川流域諸国のインフラ整備が機能するようになれば、アセアンの貧困国であったカンボジア、ラオス、ミャンマーもうるおうと同時に更に中国、インドへの道も近くなり、VTICsが一斉につながるという訳です。
 日本企業の業績は良いものの、一般庶民には景気拡大感がないと良く言われます。それは空洞化した日本で仕事をし、日本の市場しか見ていないからだと思います。海外に出れば日本企業の活力やそこで働く日本人の姿に感動することもしばしばです。
河口容子

[225]コラボはチカラ

 「貿易コンサルタントなんて職業は聞いたことがない」と私が起業したとき周囲の人たちはかなり不安視しました。しかしながらニーズがないことはないと確信し、誰もやっていない職業ならば競争が少なくてすむと私はプラスの方向に考えました。よくある職業というのは市場も大きいのでしょうが、それだけ競争が厳しいはずです。案の定、当初簡単にクライアントは見つかりませんでしたが、はまり役の仕事があれば競争はほとんどありません。評価さえしていただければそれが関係者にも伝わり自然にお声がかかるので、特殊な技術者や職人芸の世界に似ている気がします。営業活動や広告宣伝に経費も時間もかける必要がありませんので素晴らしく効率的です。おかげで、経理処理から事務用品の手配、郵便物を出す、法人税や消費税の申告にいたるまですべて1人でやっています。
 先月末、ある経済研究所からあるテーマについてタイとベトナムに関する調査報告作成というお仕事の依頼をいただきました。アセアンの専門家というのを先方がご存知だったからです。現地に行く必要はないものの作業期間は 3週間弱しかなく、他の重要案件をいくつか持っているのでこれひとつに専念もできません。仕事の内容としては大変興味深いものでしたし、おそらくこの仕事をこなせるのは日本で数人いるかどうかです。理由としては土地勘があり、英語と日本語を自在に操れ、PCの必要なソフトを使いこなせ、ビジネスマンの実務的な観点からの分析や提案をまじえながらのレイアウトにまとめあげなければいけないからです。お断りしたら相手も困るだろうというのがまず頭にありました。
 母が元気な頃は朝 5時ごろまで残業して仕事を間にあわせるのは何ともありませんでしたが、 2年前に母が目の病気を患って以来、庭先のアパートの管理も含め家の仕事のほとんどは私の担当です。また、急に病院について行かねばならないこともあるので時間の余裕は残しておかねばなりません。おまけに自分自身も体調が万全とは言えませんでした。そこで取った解決策は、同業の知人にコラボをお願いすることでした。責任と報酬を折半して、私を時間と体力消耗から解放し、かつ、互いの専門性を補完しあう事により、さらに良いものを作るのが目的です。
 成果が残せれば、今後の発展性へとつながります。サラリーマンの場合はきちんとした理由さえあれば多少の失敗があっても職を失うことはまずありませんが、私たちのような独立したコンサルタントとなると失敗すれば、他の仕事にも影響しかねません。これはと思った仕事は逃がさず、それも必ず成功させる必要があります。物理的に難しい、でもやりたい、という場合、コラボはまさに力です。
 コラボに必要なのは「人選」です。今回上記の方にお願いした理由は、英語力と貿易のスキルはもちろんのこと、この方の持つ専門性が調査目的と一致すること、タイのビジネスに詳しいこと、そしていつも時間に几帳面な方であることです。60歳を越しておられるのに私が教えていただくほどPCの達人であることがわかったのも嬉しい誤算でした。プロ同士が持てる能力を存分に発揮しながら協働、発展する、これがコラボです。また、お互いのスキルや経験への尊敬や協調性も美しいコラボへの秘訣です。
 日本では経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)は大企業に集約されており、昨今は大企業どうしの合併や提携も多く、ますます弱肉強食の産業構造になりつつあります。私のような小さい企業が生き残るには「高度な専門知識」「提案力」「フレキシビリティ」が勝負、日々の研鑽と時には効果的なコラボの力が不可欠です。
河口容子