[206]タイのクーデターによるショック

 タイ国軍によるクーデターが発生したとのニュースに私は大きなショックを受けました。タイは東南アジア諸国の中でも「政治が安定している民主国家」が売り物であったからです。列強の支配を受けた東南アジア諸国の中で唯一独立を保ったのがタイで、第二次世界大戦中も日本の圧力で枢軸国側に参戦、その後連合国側に鞍替えし戦勝国の地位を得ています。1967年アセアン加盟、1989年APEC加盟をはたし、日本を含む先進国からの投資で高度成長期が始まりました。
 実は1992年にも革命が起きていますが、現プミポン国王の仲裁で終結。このカリスマ国王の存在も政治的安定の要素でしたが、今回はクーデターを黙認したようです。1997年のタイ バーツの暴落に端を発したアジア通貨危機も乗り越え、バランスの取れた産業構造を持つ中進国になっていただけに今回のクーデターはかなりの不安要素を世界中に曝け出したことになります。投資をする先進諸国にとっては、この不安要素はタイのみならず、アセアン諸国にとってもマイナス要因、そして広義にはアジア全体にとってもマイナス要因となるに違いありません。
 日本からの投資については、タイへ投資を考えていた企業の一部はベトナムにまわるのではないかと思います。あるいはこんな事が起こるなら何も中国を不安がることもないと思う企業もあるでしょう。日本企業はまだあまり進出していませんが、グローバルな眼ではカンボジアも投資先として有利になったかも知れません。
 タイのクーデターのもうひとつのショックは、日本のクライアントに対してタイとインドネシアでの企業調査の見積を提出した晩にクーデターが起こったということです。初めて見積を出させていただいた先であるだけに何というタイミングでしょう。競合相手がいたとしても条件は同じですし、当社の場合は現地に専門家がいますので日本人がわざわざ調査に出向くよりは有利ですが、クライアントが現地での事業展開を目的とした調査であるだけに方針が変更になる可能性があります。しばらく様子見となるのでしょうが、まさに不測の事態とはこの事です。
 私自身は、アセアン諸国の政府機関のお仕事で毎年どこかの国へ行っていますが、決まりごとはどんなにスケジュールがきちんと決まっていても「ディスカウントのチケット」は使わないことです。東南アジアでは、政変、天災地変、テロ、疫病の流行のリスクが高く、常に入出国を自由に変更できるようにしておくためです。
 最近のタイに関する記述は2006年 8月17日号「スパゲティ・ボールとアセアン諸国」です。関心のある方はぜひご覧ください。
河口容子

[205]まずはアクション、次にスピード

 先週お伝えしたギフトショーへ行った翌日は銀座でベトナム・グッズの商談会がありました。1ケ月間行なわれた展示会の締めくくりが日本の輸入者と出展業者との商談会です。来場者の中に先月の私のセミナーを受講された方がたのお顔があり、ご挨拶をくださり大変うれしく思いました。この日はシンガポール政府関連のミーティングが別のフロアであり、終了後、一緒に出席した知人たちも商談会にご案内しました。
 グッドタイミングだったのは、2003年 8月21日号「輸入から起業へ」で取り上げたセミナーの受講生の男性です。当時、セミナーのフォロー用に作ったメーリングリストを利用して、あるベトナム製品を買い付けたいが情報はないか、との問いかけがあったのです。私はすかさず、この展示会に偶然その商品が出ており、また商談会があることを伝え、私も現場にいるので時間があればご覧になってはどうですか、もし気に入らなければ別の業者を紹介するように大使館にお願いをしますから、と返事をしました。
 この日、彼はやって来て、中年女性のオーナーと商談を始めました。彼のオーダー通りの商品は作ってもらえそうですし、数量も何とか調整がついたようです。あとは価格をもうひと押し。
 その晩、彼からお礼のメールが届き、商談の続きは翌日ギフトショーへの商談に持ち越されことになったとの報告を受けました。私からのアドバイスとしては、日本人は目先のことばかり細かく要求するので、相手がどんな取引をしたいのか全体像が見えず条件面で損をすることがあること。相手の立場に立って相手の安定した利益につながるような取引条件を提示すれば単価は下がるはず、とアドバイスをしました。
 また、翌日メールをもらい、ほとんどすべて要求はのんでもらい、独占販売契約も締結でき、その代わり違う商品も取り扱ってみることにしたので近々ホーチミンへ行くとのことでした。彼のメールの中で一番うれしかったのはオーナーとお嬢さんのお人柄が素晴らしく、良いつきあいをしていけそうというくだりでした。元公務員の彼も今ではすっかり交渉の達人ではありませんか。
 個人事業者や小企業では黙っていても仕事は来ません。まずはアクションです。絶妙なタイミングのメールから商談の成果が上がりました。他人のアドバイスを受け入れ修正ができ、契約に持ち込むまでのスピードも大企業にはまねができない技です。先週号でも触れた刺繍の女性と言い、昨日まで想像もしていなかった海外の相手とひとりでビジネスをスタートするこの運命的な出会いをお手伝いでき、夢の実現への第一歩を見守れるのは私としても実に感動的な瞬間です。また、このビジネスを通じて途上国の発展にささやかながらも貢献できることを思うと私自身も天職を得た感謝でいっぱいになります。
河口容子