アジア域内外のFTA(自由貿易協定)は「混戦した電気コード」あるいは「スパゲティ・ボール」と呼ばれるほど複雑になっています。東・東南アジア諸国のFTA 交渉では、現在三つのトラック方式、1) WTOやAPECのような世界的な枠組み、2)地域的(ASEANなど)3)二国間のような多層的なアプローチを採用しています。主として関税の引き下げ交渉を目的とする国際条約により、自由な経済活動や市場の拡大、経済効率の増大、国内経済改革の加速化をめざそうというものです。
先日はタイの投資セミナーが都内の某一流ホテルで開催されました。チャクラモン工業省事務次官の講演もあり、定員 300名が満員。タイはもはや中進国で産業構造のバランスが良い国です、農水産物も豊富ですし、自動車産業も裾野まで広がっています。ハード・ディスク・ドライブは世界一の生産国です。タイのある工業デザイン会社の雑貨は日本でブランドとして売られているくらいですし、伝統的な工芸品も健在です。
たとえば、タイのホンダはアジア大洋州の12ケ国46法人、 6駐在員事務所の統括機能も持っています。また、アジアの生産拠点であり、 FTAを駆使してマレーシアやフィリピン、インドネシアと分業を行なっています。 「FTAの更なる進展によりタイは有利か」との質問に同社の責任者は「より良い製品をより安く作れる所、そして物流の便利な所へと拠点が動いていくであろう」との回答をされました。現在タイでは地域によっては法人の免税期間が8年もあり、利益を再投資や他国の投資へまわすことが可能です。だいたい東南アジアの各国では外国からの投資に対する優遇策を設けており、法人税の免税期間があることが多く、これを利用していけば生産拠点を点々として法人税は長期間ゼロにすることが理論上は可能な訳です。国際的なビジネスを行なっている日本企業の日本にある本社機能がだんだん小さくなり、税収面で将来問題が出てくるのではないでしょうか。
一方、シンガポール、マレーシアといった東南アジアのすでに発展している国々もうかうかしていることができません。中国のみならず、最近はインドの脅威も感じているはずです。ここ2-3ケ月の間にシンガポールやマレーシアの企業が日本オフィスを開設するので日本人スタッフの確保も含めて手伝ってほしいというような話を各国の政府機関や上場企業から数件いただいています。製造業の場合は、該当する製造分野で一定年数の経験があり、英語ができることが最低条件ですが、団塊の世代が定年を迎える今にはありがたい現象だと感じています。
ところが、東南アジアの企業だからと甘く見る人、申し分ない経歴であっても英語ができない、オフィス立ち上げのような起業家的な部分の仕事には不安を感じる、などなど企業は国際化しても日本人個人個人はなかなか国際化していない事への寂しさを感じる昨今です。
河口容子
[163]南の島へのあこがれBIMP-EAGA
読者の皆さんは BIMP-EAGAをご存知でしょうか。ビムピアーガ、最初の 4文字はブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの国名の頭文字を取っており、後の 4文字はEast ASEAN Growth Area、つまり東アセアン成長地域という意味です。先日、東京でBIMP-EAGAへの投資セミナーが開催されました。
アセアン諸国は、政治体制、言語、民族、宗教、人口、面積と実に多様で、経済発展にもかなりばらつきがあります。今脚光を浴びているのは「大メコン経済圏」というベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーというインドシナ 4ケ国にタイと中国をあわせたメコン川流域の開発です。
一方、 BIMP?EAGAはブルネイ(ボルネオ島にあります)、インドネシアのカリマンタン、マルク等、マレーシアのサバ、サラワク等、フィリピンのミンダナオ、パラワン等の島嶼地域で合計人口は約5,750万人、合計面積は約160万平方キロ(日本の4倍以上)です。1992年にフィリピンのラモス大統領により4ケ国により共同開発構想が提案されましたが、1990年代後半の経済危機により停滞し、2003年10月の首脳会議で運輸、観光、産業の 3分野を優先分野として再活性化することで合意されました。豊かな森林資源(域内の 60%が森林)、鉱物資源(石油、天然ガス)、漁業資源という自然の恵み豊かな地域で、農業が基礎産業(米、ココナッツ、パームオイル、ゴム等)です。大メコン経済圏を大陸のアセアンとするならば、 BIMP-EAGAは島のアセアンで、個人的には南の島への憧れからどうしても後者のほうに魅かれてしまいます。
通常、国別ないしは一国の行政区分ごとに投資セミナーは行われますが、このセミナーは 4ケ国の政府担当者が講師として集まりました。アセアン諸国はその多様性ゆえに、EUのようにまとまらないと言われて来ましたが、BIMP-EAGA についてはテーマごとにリーダー国が決められており、運輸とインフラの開発はブルネイ、天然資源開発はインドネシア、観光開発はマレーシア、中小企業の育成はフィリピンとそれぞれの国の特徴を生かしたリーダーシップの下、多国籍チームで活動を行なっています。
セミナーでは BIMP-EAGAに投資をした日本企業の経営者による講演もありました。多国籍展開をしている電子部品メーカーはマレーシアのクチン(サラワク州)に工場を作り、マレーシア人2,200人を雇用し、24時間操業を行なっています。女子サッカーチームがクチンで強いのがご自慢のようです。熱帯雨林と電子部品、ちょっと想像を超える組み合わせではありませんか?もう 1社、こちらは鹿児島県のさつま揚げと冷凍食品の会社ですが、安全な食を求めてミンダナオ島ダバオに会社を設立しました。この企業は地元との連帯と発展を願い、10年間で東京ドーム2000個分の植林を行なう計画です。
日本国内ではあらゆる点でリスクを避けたがる傾向が目立ち、いかに楽をしてお金を稼ぐか、また拝金主義に満ち満ちています。それに比べ、まだ開発途上の地域で、工場を立ち上げるのは並大抵なことではありません。その勇気と努力に私は心から拍手を送ります。そして、熱帯雨林に癒される彼らを羨ましくもあります。
河口容子