香港のビジネスパートナーが久しぶりに東京にやって来ました。だいたいせっかちで一方的な性格のため、あっという間にスケジュールを決め、取引先とこんな事を話したい、あんな事をしたいというメールが来ます。だいたい到着の 2-3日前の話です。毎日3件くらいのアポを入れ、取引先に商品サンプルなどを用意していただかねばなりません。皆さんご多忙にもかかわらず、快くスケジュールを調整して下さり、駅までの送迎をかってでて下さったりと本当にありがたい限りです。ただでさえ、てんてこ舞いの私に台風が上陸するかも知れないとのニュースが飛び込んで来て、まさに「嵐を呼ぶ男」です。
逆に来日するほうの身にとれば、充実した日々を過ごしたいと思うので「めざせ、アテンドの達人」としては連絡先一覧をかねた詳細なスケジュール表を作成して本人や留守番部隊にメールで送っておきます。到着が夜のためその日は会わずホテルのフロントに私がいつも預かっている日本国内用の携帯電話をお土産と一緒に届けておきました。日本語の携帯のため簡単英語マニュアルも作成しました。
今回は高崎と前橋に本社がある取引先も訪問しました。ちょっとした遠足気分です。仕事のアイデア交換や政治、経済の話などを移動中はよくしています。選挙の話も出て、「自民党が過半数を取ればふたたび小泉首相となるのだろうがその際は中国政府に徹底的に叩かれるだろう。日中双方ビジネスをしている人間は被害をこうむる。」と言っていましたが、そこまで来れば日本のビジネスマンも黙ってはいない気がします。もはや中国とのビジネスは大企業のみならず個人事業者のレベルまで実に裾野が広いからです。
前橋で夕食を取りながら「香港のビジネスマンは日本人に比べアクティブでフレキシブルな理由は何だと思いますか」とたずねてみました。「まず起業が簡単な環境にあるからだよ。日本では会社員が起業するのは非常に難しい。リスクが大きいし、リスクを非常に恐れる。香港人はイチかバチかで賭けるのが好きだよ。」彼は10社ほど会社を持っていますが、社員が転職したり起業する前によく相談に来るそうです。そのせいか、転職したり起業した後もいろいろビジネスの情報をくれたりするとか。それに比べ、日本では密かに就職活動を行い、転職先が決まってから初めて退職したいと上司に言うケースが多いのではないでしょうか。会社というムラ社会がいまだに存在します。「日本人はまず自己責任の概念を学ぶべきでしょう。サラリーマン根性と日本では言うのですがすぐ言い訳をし、会社や上司のせいにしがちです。」と私。「特に日本人の男性の中間管理職は最低。その下で働く女性のほうが実務ができるからはるかに使える。」と彼。
埼玉の戸田にも一緒に出かけました。「オリンピック通り」の名前から東京オンピックの話になり、映画「東京オリンピック」を観たかと聞くと「非常に印象に残る映画」との答えでした。彼とは映画、音楽、本が共通の趣味ですが、「観たければ今度、DVDを貸してあげるよ。」私が東京オリンピックの頃日本はまず貧しく、高速道路も新幹線も世銀の借款で作った話をすると「何もかも破壊されて短期間に復興したのは驚異的だった。きっと米国がたくさん資金をつぎこんだのだろう。」
戸田から新宿へ帰る電車の中、私たちの向かい側のシートにフィリピン人が 3人並んで腰掛けていました。英語で話している私たちを不思議そうにじろじろ見ています。おそらく何人だろう?と思ったのか、どちらが外国人かなと思って見ているのでしょう。たぶん、いつものように彼が日本人で私がどこかのアジア人と思われているに違いないと内心おかしくてたまりませんでした。
台風一過、夏の日差しが戻り、彼も予定どおり香港へ戻って行きました。10月 1日からの国慶節の中国版ゴールデンウィークは中国、香港の小売業やレストラン、観光業にとって繁忙期です。その前に仕入、船積みともうひと嵐が私にはやって来ます。
河口容子
【関連記事】
[292]アポイントをめぐる話題
[149]上海市投資セミナーにて
中国ミッションは一段落と思いきや、暑いさかりに上海市から投資ミッションがやって来ました。もっとも、今年の上海は37度の猛暑、仕事と勉強をかねて今春から上海に住み始めた知人のお嬢さんもいきなり反日デモの洗礼を受けたあと今度は猛暑に悩まされているようです。
さて、会場は川崎、最近はこうした催しも地方公共団体や地方都市の商工会の主催も多く、地図を片手に会場探しをしながらたどりつく事がふえました。猛暑の上海から来日したミッション・メンバーは全員スーツにネクタイ姿、一方日本人側は「クールビズ」の影響か、ほとんどノーネクタイに半袖シャツの姿が目立ち、司会者があわてて言い訳やらお詫びをする始末でした。
内容は上海近郊の工業団地ふたつの紹介がメインでしたが、この「開発区」と呼ばれる地域も中国全土に6,060あったのが、昨年見直されて 7割削減されたというのですから、中国は広いと言えばそれまでですが、乱開発といっても過言でなく、一口に開発区といっても国家レベルから地方行政レベルといろいろあるわけです。進出する企業はどこが自社にとってメリットがあるのかを見極めるだけでも大変な仕事といえましょう。どこの開発区でも世界の一流企業が「広告塔」になるらしく、一時期日本でもブレイクしたアウトレット・モールのブランド企業誘致合戦を思いおこさせます。
この投資セミナーで私が興味深かったのは日本の損害保険会社による講演でした。通常のセミナーでは長所ばかり現地の方がアピールされるのですが、このようにリスクを指摘して必要なら保険をかけてください、という視点はきわめてリアルで新しい傾向ともいえます。昨年末で中国に進出している日本企業は約22,000社、沿海部特に上海を中心とした華東に集中しており、約 8割が現地法人です。沿海部では独資が多く、内陸部は合弁会社方式が多いようです。また、製造業のほうが非製造業を上回っています。中国ビジネスにおいてトラブルの原因となるのは日本の国土の26倍だけに交通インフラの悪さと自然災害、物流業者のサービス・質の問題、コネの世界、信じられないヒューマン・エラー(現地社員のトレーニングや知識不足により思わぬ事故をまねく)、ストライキ、交通事故や治安問題などです。これに加え、商習慣の違いによるもの、たとえば、売掛金が回収できない、という事もよく聞く話です。
工場で出す食事の味付けが良くないということで一部の労働者がストライキを起した例もあるそうです。また、はずみで現地労働者をなぐってしまった、そうすると地元民も含め 100人以上出て集まって騒乱となり、これを治めてもらうのに多額のお金を行政に払ったケースもあったとか。日本人は海外で人を使うのがとても下手です。気を遣い過ぎて甘やかしてしまうか、逆に厳しすぎて反感を買うケースのどちらかになりがちです。特に日本人は中国人に対しては顔が似ている、漢字を使う、歴史的にもつながりが深いという事で同質と勘違いしてしまう傾向がありますが、異文化のもとで仕事をしているという認識と明確な態度やコミュニケーションが意識的に必要だと思います。日本語のあいまいな表現やホンネとタテマエの違いは日本人どうしでも誤解のもとになることが多いからです。
河口容子