ここ数年、中国および東南アジア諸国から日本の技術支援に関する依頼をよく受けます。また、昨年中国でのデザイン支援ビジネスをやってみた事から日本はアジアにおいて技術支援、デザイン支援といった専門分野での貢献をしながらその国や企業を富ませることにより感謝されながら利益を産むという発想がもっとあっては良いのではないかと思っています。
2004年 6月18日号「教育ビジネス市場としての中国」で中国での熟練工不足について触れました。最近もよく中国関連で製造業から品質改良や商品開発の技術支援をしてほしいという話をいただきます。技術コンサルタントをたくさん知っているので紹介いたしましょうか?と詳しく話をしていくと、「そんな大それた話ではない。理論的にどうこうではなく現場で毎日一緒に働きながら教えてくれる人で十分。だいたいコンサルタントなんて経営にまで口を出すだろうからそんなことはされたくない。」と言われます。では熟練工が必要なのですか?と聞くと「熟練工を 1年くらい雇うからその間に問題解決をしてくれれば良い。年配の人は使いにくいし、現場ではなじまないと思うので30代から40代くらいまで。」 1年のあとは?と聞くと「勝手に好きな所へ行ってくれていいから。」とだいたいこんなやりとりで非常に不快感を覚えます。
根底にあるのはまず日中の労働環境の差にあるのでしょう。日本は長らく終身雇用が原則で社内研修も非常に盛んでした。おかげで忠誠心のある熟練工が育ちました。一方、中国は典型的なジョブ・ホッピング社会で条件が良ければすぐ違う企業へ移ってしまいます。だから企業が従業員教育をしたところで転職をサポートしているようなもの、どうせどこかへ移って行くのだから高い人件費は出せない、だからそれなりの人材しか来ないという悪循環になります。一方、従業員は自らスキルアップしてどんどん階段を昇る者と非熟練のまま流れて行く者に分かれていきます。「中国が世界の工場」と呼ばれ出して長いものの慢性的な熟練工不足に陥っているのは企業と個人双方に問題がありそうです。「どうせ熟練工なんか来やしないから、償却できたら機械を最新のものにどんどん取り換える」という割りきった方針の経営者もいると聞きます。日本も終身雇用制の崩壊とともにだんだん中国化しているような気がします。
次に問題解決の手法についてです。中国側の言うように日本人の熟練工一人を 1年雇ったところでその問題は解決できるのか。もちろんそんなケースもあるでしょうが、中国の工場に日本人の熟練工をひとりぽつんと配置するだけで問題解決には何らならないと思えます。言語、生活ともにご本人も周囲の人も逆に問題をかかえることになりかねません。また、日本では熟練工はものづくりのスペシャリストではあっても会社全体の運営や研修プログラムを決定するような立場ではないと思いますので来てもらえば自発的に何かやってくれるだろうと期待されても困ります。日本人の熟練工の報酬が高くても熟練工なんだしアドバイザーなんだからと思えば人件費の枠内に収まり、労使関係もきちんと保てるという発想が読み取れます。
しかしながら、抜本的な改善や開発というのはまず会社の方針、マネジメントの問題です。中国人はどうしても即効がないものには投資をしたがらない傾向にあります。人口が多く、競争がきびしいため、のんびり構えてはいられない。中小企業のオーナーは自分の会社は自分のもの、社会的な存在意義などはあまり考えない。儲かればさっさと会社をたたむか売るかして御殿を建てて悠々自適の生活をするか、志半ばに過労死するか、まさに人生いろいろです。
グローバル化の急速な進展で何もかもが経済原則一辺倒になってしまいましたが、時間が解決する問題、時間が育ててくれるものもまだまだたくさんあります。ノーベル賞受賞もそうでしょうし、判断力ひとつだけとっても経験という時間の賜物です。こういう時間の贈り物を日本は見直し大切に使っていくべきではないでしょうか。
河口容子
[320]中国 不払の伝統の考察
中国で代金を回収するのが至難の技というのは有名な話です。もちろんお金がなくて払えない事もありますが、お金があっても払わない。不払は商習慣、文化、いや伝統ではないかと思うくらいです。
笑い話のような実話があります。日本のアパレル企業の役員さんです。中国では代金の回収が不安ということで日系のデパートに出店することしたというのです。1年ほど経過した頃様子をお聞きしたところ「よく売れるのですが、売掛金ばかりふえて現金はもらえないのです。」「日系企業なのに?」「経理の責任者は中国人ですからどうしようもありません。」
ある機械メーカーの社長さんの場合、中国の取引先に毎月 2名技術者を派遣していました。毎月支払うという契約なのに 1年以上経費が不払のまま累積し、倒産しそうだというのです。社長さんご自身も技術者で借入をするには決算書をきれいにしておく必要があるという経営の初歩すらご存じなかったというおまけつきです。「支払が遅れて催促をされなかったのですか?」無言の時間が流れました。「なぜ催促をされなかったのですか?」「最初は来週払ってくれるだろう、月末払ってくれるだろう、一時的に資金がショートして払えず恥ずかしくて遅れると言えないのだろう、きっと心の中では申し訳なく思っているに違いない、そう思うことの繰り返しでした。」「なぜ技術者の方を引き上げなかったんです?国内で仕事をしてもらえば良かったのではないですか?」「 2年がかりでやっと見つけた取引先ですし、中国市場に賭けていました。それを失うのが惜しかったし、こわかったんです。」中国側は悪いと思うどころかこの社長さんの弱腰をこれ幸いと利用したに違いありません。
私の香港のビジネス・パートナーは英国在住経験もあり、上記のような事は決してありませんが、時々香港の古くからの知人に引っ掛かっているようです。日本人なら二度と顔も見たくない、となる所ですが、ほとぼりがさめるとまた一緒に仕事をしています。「狐と狸の化かし合い」長年続けばお互いの損得も平均値におさまるという発想なのかも知れません。
香港のクライアント D氏は仲が良い中国人社長に契約金額の半分しか払ってもらえなかったとこぼしました。中国人社長は子供の頃から香港で教育を受けているにもかかわらずです。「その社長はあなたに迷惑をかけたと思わないの?それでも前のように友達関係は続くの?日本人には理解できません。」と私。この話からふと感じたのは日本人はお金がなかったり、払うつもりがなければ契約はまずしません。ところが中国ではとりあえず契約をしてしまい払わない方が勝ち。また受け取る側も不払のリスクを契約金額に含めているのではないか、ということです。
もともと中国には「出世払い」の伝統や「支払を遅らせる能力が評価される」と聞いたことがあります。ゆえに私の香港のビジネス・パートナーいわく「中国人には支払わない何百もの理由がある」と。専門家によれば中小企業に対する融資制度が発達しておらず現金を社内留保せざるを得ないばかりか、支払を遅らせてその間運用して金利を稼いでいる経営者や経理担当者もいるそうです。おそるべしこの身勝手さというかメンタリティの強さ。
香港でも言えることですが、中小企業の支払いはすべてオーナーなり社長が握っています。ボスの出金指示がない限り経理担当者も支払いはできません。ボスが多忙だと指示を忘れることもあります。ですから悪意はなくても不払がおきることはあります。そんな時はすかさず催促をすることです。日本人はどうしてもお金の話をするのをためらいがちですが、催促や確認をしなかった方にも非があると言われる場合もありますから前述の機械メーカーの社長のように希望的観測を続けると大変な目にあいます。
河口容子