[151]嵐を呼ぶ男

 香港のビジネスパートナーが久しぶりに東京にやって来ました。だいたいせっかちで一方的な性格のため、あっという間にスケジュールを決め、取引先とこんな事を話したい、あんな事をしたいというメールが来ます。だいたい到着の 2-3日前の話です。毎日3件くらいのアポを入れ、取引先に商品サンプルなどを用意していただかねばなりません。皆さんご多忙にもかかわらず、快くスケジュールを調整して下さり、駅までの送迎をかってでて下さったりと本当にありがたい限りです。ただでさえ、てんてこ舞いの私に台風が上陸するかも知れないとのニュースが飛び込んで来て、まさに「嵐を呼ぶ男」です。
 逆に来日するほうの身にとれば、充実した日々を過ごしたいと思うので「めざせ、アテンドの達人」としては連絡先一覧をかねた詳細なスケジュール表を作成して本人や留守番部隊にメールで送っておきます。到着が夜のためその日は会わずホテルのフロントに私がいつも預かっている日本国内用の携帯電話をお土産と一緒に届けておきました。日本語の携帯のため簡単英語マニュアルも作成しました。
 今回は高崎と前橋に本社がある取引先も訪問しました。ちょっとした遠足気分です。仕事のアイデア交換や政治、経済の話などを移動中はよくしています。選挙の話も出て、「自民党が過半数を取ればふたたび小泉首相となるのだろうがその際は中国政府に徹底的に叩かれるだろう。日中双方ビジネスをしている人間は被害をこうむる。」と言っていましたが、そこまで来れば日本のビジネスマンも黙ってはいない気がします。もはや中国とのビジネスは大企業のみならず個人事業者のレベルまで実に裾野が広いからです。
 前橋で夕食を取りながら「香港のビジネスマンは日本人に比べアクティブでフレキシブルな理由は何だと思いますか」とたずねてみました。「まず起業が簡単な環境にあるからだよ。日本では会社員が起業するのは非常に難しい。リスクが大きいし、リスクを非常に恐れる。香港人はイチかバチかで賭けるのが好きだよ。」彼は10社ほど会社を持っていますが、社員が転職したり起業する前によく相談に来るそうです。そのせいか、転職したり起業した後もいろいろビジネスの情報をくれたりするとか。それに比べ、日本では密かに就職活動を行い、転職先が決まってから初めて退職したいと上司に言うケースが多いのではないでしょうか。会社というムラ社会がいまだに存在します。「日本人はまず自己責任の概念を学ぶべきでしょう。サラリーマン根性と日本では言うのですがすぐ言い訳をし、会社や上司のせいにしがちです。」と私。「特に日本人の男性の中間管理職は最低。その下で働く女性のほうが実務ができるからはるかに使える。」と彼。
 埼玉の戸田にも一緒に出かけました。「オリンピック通り」の名前から東京オンピックの話になり、映画「東京オリンピック」を観たかと聞くと「非常に印象に残る映画」との答えでした。彼とは映画、音楽、本が共通の趣味ですが、「観たければ今度、DVDを貸してあげるよ。」私が東京オリンピックの頃日本はまず貧しく、高速道路も新幹線も世銀の借款で作った話をすると「何もかも破壊されて短期間に復興したのは驚異的だった。きっと米国がたくさん資金をつぎこんだのだろう。」
戸田から新宿へ帰る電車の中、私たちの向かい側のシートにフィリピン人が 3人並んで腰掛けていました。英語で話している私たちを不思議そうにじろじろ見ています。おそらく何人だろう?と思ったのか、どちらが外国人かなと思って見ているのでしょう。たぶん、いつものように彼が日本人で私がどこかのアジア人と思われているに違いないと内心おかしくてたまりませんでした。
 台風一過、夏の日差しが戻り、彼も予定どおり香港へ戻って行きました。10月 1日からの国慶節の中国版ゴールデンウィークは中国、香港の小売業やレストラン、観光業にとって繁忙期です。その前に仕入、船積みともうひと嵐が私にはやって来ます。
河口容子
【関連記事】
[292]アポイントをめぐる話題

[139]世界の起業家事情

 国際調査機関のグローバルアントレナーシップ・モニターが世界の35の国と地域で「起業率」の調査を行いました。トップはペルーで40.3 %、次にウガンダで31.6 %、第 3位がエクアドルで27.2 %です。私はこれらの国々に行ったことがありませんが、10人のうち 3-4人が自分でビジエスを始めるということは、資本があまりなくても、あるいは特に優れたスキルがなくてもビジネスを開始できる環境にあるか、「雇用される職場」が少ないかのいずれかにあたると思います。
 実はこのニュースは香港で話題となりました。香港はもともと「老板(ラオパン)」、個人商店主つまり起業家の伝統のあるところです。ところがこの調査では何とビリから 3番目で3%という数値になりました。香港中文大で学ぶ本土の学生が起業志向が強いのに対し、香港人の学生は大企業に就職したがると言います。広東省深センでの起業率は何と11.6%で米国の11.3%より少し上です。それだけビジネスチャンスがまだまだ本土にはあるということでしょうか。一方、香港には安定した職場がふえているとも言えます。
 さて、だんとつビリはやはり日本で1.5%。 100人いれば1人か2人しか起業しないサラリーマン大国です。起業といっても今話題のヒルズ族のようなIT企業から小さな雑貨店や私のような専門職的なサービスの会社まで含めてこの数字しかありません。理由としては、まずはコストが何でも高すぎることです。起業してすぐ大黒字になるケースはまれですから、かなり資金的に余裕がなければ起業ができません。大企業、知名度優先のビジネス社会になっていますから、新規の小さい企業が実力を認めてもらうにはかなりの努力と能力を必要とします。起業するのが偉いとは思いませんが、起業家が少ないと活力や柔軟性に欠ける社会にならざるを得ません。一方、納税者番付けのトップは初めてサラリーマンでした。成果主義の導入を象徴するもので素晴らしいと感じますがこれでますます起業家が減るのではないかと心配もしたりします。
 マニラの日本大使館に勤務する日本人女性から聞いた話です。「マニラのホステスたちはお金をためて郷里で雑貨屋をやりたいと必ず言うんです。田舎じゃたいして売れないだろうし、仕入ルートをきちんと確保しているわけでもないから儲かりもしないでしょうに。」ところが、これはマニラのホステスだけの話ではなく、香港人のちょっとお金を持っている人の間でも本土の親戚をたよって本土でお店を持つのが流行っていると聞きます。この話を上海で合弁企業をもつ日本人の男性にしたところ、上海でも故郷でお店を持つのが流行っているとか。日本人でも故郷に錦を飾るという言葉がありますが、私の持つイメージは立身出世して派手な身なりで郷里に帰り御殿のような家を建てるというようなもので、故郷でお店をやりたいと言う話はまず耳にしません。この違いは謎です。
河口容子