[103]街をきれいに。

今日は沢木まひろさんの寄稿でお届けします。

■街をきれいに。

ここ1週間で2回、吸い殻を道に捨てる人を見た。

ひとりは10代後半から20歳そこそこと思われる男の子。夕方の路上、携帯電話片手に大きな声で話しながら歩いていて、ぽろっと火の点いたままの煙草を落としていった。「落とした」という表現のほうが「捨てた」よりあてはまる感じだったのだが、実際すぐに新しいのをくわえたところを見ると、やっぱり捨てたのだろう。

2人めは交差点で。私は自転車で横断中だった。信号待ちの、車種は忘れたけどピカピカの高級外車に乗ったヒゲの中年男性。窓から気取った手つきで、やはり火の点いたまま放り投げた。目が合ったが、まったくの無表情だった。

「火の点いたまま」ってのが共通していた。路上だったら即火事の原因になることも殆どないだろうが、いかにもやりっ放しな感じがする。もっとも、靴の底でこすり消したり車内の灰皿に押しつける手間をかけるぐらいなら、最初から捨てたりはしないだろうけど。

煙草に限らず、ゴミを平気で放置する人は多い。自転車の前カゴにいつの間にか菓子パンの空袋が入っている。駅前のポストの上に、ジュースの空き缶が並べてある。電車の中で、キャンディの包み紙を座席と背もたれの隙間に、平然と押し込んでいる女子高生を見たこともある。

私はつい最近まで、『恋人あるいは結婚する相手に求める最低条件』は「人の価値観を否定しない人」としてきた。しかし今後は『ゴミのポイ捨てをしない人』に改めようかと思っている。どんなに素敵で優しい男性でも、ポイ捨て1発で気持が冷める。

ポイ捨てとはちょっと違うけど、昔、こんなことがあった。

彼は大学のクラスメイトだった。演劇に詳しく、話題豊富でとても礼儀正しい、良い友人だった。そんな彼が、私と一緒に歩いていて道にツバを吐いたのである。一瞬私は、自分が何か気に障ることでも言ってしまったのかと思いどきりとした。でも彼は普通に話を続けた。別に機嫌を損ねたわけではなかったのだ。

とてもびっくりした。絵に描いたような好青年の性格と、人と一緒に歩きながら道にツバを吐く無神経さ。その両方がひとつの身体の中に同居している、ということが、どうにも信じられなかったのだ。

彼とは今でも友人同士である。でも私は彼からの年賀状を見るたび、どうしてもあの日のことを思い出してしまう。

日本も罰金制にするべきだと思うな。

沢木まひろ

沢木まひろのメールマガジン
現代メロンパン考
読むドラマ