[256]「あけぼの」と「しののめ」

6月頃ですか、TVチャンピオンという番組で「なでしこ中高生・美しい日本語選手権」というのがあり、見目麗しき高校生が丁々発止の正答を答える様は本当に見事なものでした。(テレビ東京「なでしこ中高生・美しい日本語王選手権」放送日:2005年6月16日)

最後の王座をかけた問題が「少し白けた早朝の光景をなんというか?」という問いに、即座に「曙(あけぼの)」と答えて王座を逃す少女鈴木翔子さん。別の少女中尾友美さんが「東雲(しののめ)」と答えてチャンピオンになりました。

番組の最後のテロップによれば「曙」でも間違いではないとのことで、両者共に優勝となったとのこと。よかったよかった。

夜が明ける頃の様は、日本語では「暁(あかつき)」「曙(あけぼの)」「東雲(しののめ)」「朝(あした)」という4つの言い方があります。

この中で「朝(あした)」は完全に日が上った状態をさし、夜とは決別している状態をいいます。浜辺の歌に出てくる「あした浜辺をさまよえば~」の「あした」は翌日という意味ではなく「あさ」という意味です。

暁(あかつき)は夜の終わりをさし、明(あか)るくなってくる時(とき)=あかときがあかつきといわれるようになったようです。くくりとしては「夜の終わり」であり朝ではないようですね。

では次に来る「曙(あけぼの)」と「東雲(しののめ)」はどちらが早いのかということになりますと、これがなかなか判断は難しいところです。

漢字からすると「日が署(あら)われる」意味の曙は太陽が出ている様を現すように思えますが、実際には枕草子「春はあけぼの~」に見られるように、闇から山の形が薄っすら見えてくる頃をいうとすれば、日はまだ出ていない頃をさすと思われます。

参考:枕草子「春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明りて、紫だちたる雲の、細くたなびきたる。」

一方で、東雲は地平線の雲が茜色に染まってたなびく様を表しますから、こちらは太陽は出ていないものの、かなり明るくなっている頃をさします。

とすれば、夜(夜半⇒暁を経て)の次に来るのは、闇が明るくなり始めの「あけぼの」、そして次に来る状態が「しののめ」、日が完全に上って「あした」というのが正解でしょうか。

また「あけぼの」というブランドの缶詰のマークを見てみると、太陽が昇って光条が出ている様を表していますが、英語ブランドでは「day break(闇をやぶる)brand」ということで、必ずしも太陽が出ているというわけでもありません。

美しい日本語を使う環境は減ってしまいましたが、いずれにしてもたかが「夜明け」ごときに4つもの言い回しを考えてしまう日本語文化はたいしたものです。