第16回-リハビリの成果
こんにちは。稲垣尚美です。梅雨に入ったけど、暑いですね。
私は、リハビリの担当をしてます。でも、理学療法士ではないので、入所者にリハビリの的確な指示を出すことはできません。理学療法士の先生は、月に一度、外部から来て一時間程度、みてくれます。私は、それぞれの入所者のリハビリの可能性を探り、この人は、こうした方が、いいんじゃないかなと他の人に相談し、リハビリの先生にみてもらいます。リハビリの専門的なことは、わからないけど入所者に一番近い立場として意見は、言えます。リハビリの先生の指示をいかに日常動作の中で取り入れていくかを考えるのも私の仕事です。
ゆきさんという方が、います。痴呆の方で足は、麻痺しています。80歳の方で一度、車椅子から落ちて足を骨折したことがあります。骨折が、治ってから、ゆきさんは安静用の車椅子に乗っていました。リクライニングの大きな車椅子です。手が、よく動くゆきさんを見て、普通の車椅子に替えたいと思うようになりました。リハビリの先生は、いいじゃないかと言ってくれましたが、また落ちて骨折となると・・・という他の職員の声もありました。
落ちた2年前は、まだ座位も安定してなく、ずるずると滑り落ちていってしまったのです。しかし、今はかなり腰の筋肉もついて座位も安定し、これならいけるんじゃないかと思いきって車椅子をかえてみました。
するとゆきさんは、替えたその日のうちに車椅子を自走できるようになったのです。今までのリクライニングの車椅子は、ゆきさんの手が、タイヤまではとても届くタイプではありませんでした。しかし、普通のタイプの車椅子は、ゆきさんの手が届くのです。ゆきさんは、方向転換もとても上手にできるようになり、自分で行きたい場所へ行けるようになりました。施設の廊下を自分1人で一周、ニ周して楽しそうに戻ってきます。
車椅子を替えてしばらくして、朝、着てもらった服じゃないものを着ているゆきさんに気がつきました。「その服、どうしたんですか?」と聞くと「あの服は、好きじゃないからこっちのに変えたの」との返事。え~と驚いてしまいました。ゆきさんが、自分で服の着脱ができるとは今まで思ってもみませんでした。いつもベット上で私達が、パジャマから洋服に着せるので、やってもらっていることはせいぜいボタンはずしとボタンはめでした。
その日、ゆきさんは、自分で服が入っている床頭台のところへ車椅子で行き、扉を開けて自分の気に入った服を選び出して、今まで着ていた服を脱いで自分が選んだ服を着て、今まで着ていた服を床頭台に戻したという一連の動作を自分の意志でしたということです。
服にかなり執着がある方なので自分の着せてもらった服が、気に入らないという気持ちから出た行動でした。
車椅子を替えるだけでこんなに日常動作にも積極性が出てくるものなんですね。今までされるがままで自分から何もしようとしなかったゆきさんが、どんどん変わっていく様を楽しみにみています。
この間は、書道教室に参加していました。
ゆきさんの作品が、廊下に張り出されて「え~、ゆきさんって書道もできるんだね」と、みんな驚きつつ、作品を見ていました。
もっと他の入所者の可能性も探っていきたいと思っている私です。
2002.06.17