第27回-帰宅願望

2018年8月26日

こんにちは、稲垣尚美です。ちょっと間が、空いてしまってすみません。1週間ってあっという間ですね。

すっかり秋めいてきまして長袖が、恋しい季節です。また、昼間と夜の気温の差が、大きいですね。風邪に気をつけてください。

すうさんのお話です。すうさんは、少し痴呆があります。たまにとっても帰宅願望がでます。

「若松へ帰るから送ってほしい」と。いつも彼女の帰りたい場所は、生まれ育った実家なのです。たぶん20数年しか生活してない場所なのに。嫁ぎ先は、50年以上です。倍以上も嫁ぎ先で生活しているのにそれでも帰りたい場所は、実家なんです。夫や子ども達と長年生活してきた嫁ぎ先ではなく、すうさんをかわいがってくれた両親のいるはずの実家。

すうさんの「実家へ帰りたい」という言葉を聞く度に女性にとって一番安心できる場所は、自分の生まれ育った実家なのかもしれないと考えてしまいます。

嫁ぎ先では、夫の両親や兄弟達に気を使って生活してきたのでしょう。そして気を使いながら、子ども達を育てて。苦しいことがあると実家の父を思い、悲しいことがあると実家の母を思い、うれしいことがあると両親に報告したいという思いを胸にたくさんたくさんためこんで、実家へ帰りたいという思いを今、口に出しているのだろうと思うとすうさんの願いを叶えてあげたいと心底、思います。

でも、すうさんの帰りたい実家は、もうないのです。新しい家にかわっています。すうさんを愛してくれた両親は、ずいぶん前に亡くなっています。

そのことを充分わかっているはずなのにつかえていたものが喉から出るように「若松へ帰りたいから、車で送ってほしい」と今日もすうさんは、両手を合わせて職員に頼んでまわっています。

2002.09.30