第34回-痴呆の利雄さん
こんにちは、稲垣尚美です。外では、強い北風がピューピュー吹いています。本格的な冬、到来。今年は、どんなクリスマスにしようかなと考えるとワクワクしますね。
施設でもクリスマスと忘年会のイベントが、あります。クリスマスは、クリスマスバイキング。忘年会は、慰問の人達の余興などです。
利雄さんという痴呆の男性が、みえます。身長の高いがっしりした体つきで手足に不自由は、ないので小柄な私は、ちょっと近づきがたい思いをしてしまうのですが・・・
この利雄さん、とても帰宅願望が、あります。職員をみつけては、「今日は、帰る日だろう」と一日に何度も聞きにきます。その度に「今日は、帰る日じゃないから、泊まっていってくださいね」で、5分もしないうちにまた「今日は、帰る日だろう」の繰り返しです。
夜間など、睡眠時間がとても少なく、3時間程度しか横にならず、あとはホールの椅子に座って朝を待つという毎日です。何度か、声をかけて居室で横になってもらうのですが、すぐに起きてきてしまいます。どうしてこんなに睡眠時間が少なくてすむのかと、夜勤中、眠い目をこすりながら仕事をしている時、秘訣を教えてもらいたいものだと思ってしまいます。
利雄さんの帰宅願望が、強まる夕方、私が、エレベーターを使ってお茶を運んできました。うちの施設は、2階が痴呆棟になっています。1階が、玄関です。エレベーターが、2階について扉が開いた瞬間、利雄さんが、エレベーターに乗ってしまったのです。利雄さんは、エレベーターに乗れば、玄関に行くことを知っています。
いきなりエレベーターに乗られて私は、焦ってしまいました。「利雄さん、降りてください」と、私は、利雄さんの腕をつかんでエレベーターから出てもらおうとしましたが、簡単に振り払われてしまいます。
すぐ近くにいた男性職員を呼びました。力のありそうな22歳です。「お願い、一緒におろして」その職員は、「稲垣さん、焦っちゃあだめですよ」と笑いながら、「エレベーターの扉をしめますよ」と閉のボタンを押してエレベーターを閉めました。そして扉が、閉まって一呼吸おいてから開のボタンを押して扉が開くと同時に「つきました。玄関に。」と利雄さんに言うと利雄さんは、スタスタとエレベーターを出て玄関と思われる方向へ歩いていきました。もちろんエレベーターそのものは、動かしていないので2階の痴呆棟のままです。
ほっとしましたが、今までの自分の経験ってなに?ってちょっと情けなくなりました。
2002.12.23