第35回-まちさんの転落
こんにちは、稲垣尚美です。施設から見える日の出は、最高です。特に冬のこの時期。水平線から少しずつ赤みが増し、海をオレンジ色の光がさしてくる瞬間は、言葉では言い表せないほどです。神々しく、神へ賛美したくなります。お年寄りは、日の出を見ると自然に手を合わせてみえます。私もこんな素晴らしい景色を見せてくれてありがとうって誰かに感謝したくなります。
90歳のまちさん、車椅子から落ちて足にひびが入り、3週間の安静対応です。自分で車椅子を操作して自由に動き回るまちさん。痴呆が、あります。自分のベッドのところで落ちてしまったので自分でベッドに移ろうとしたのか、それとも床頭台の中が、気になったのか、本人とのコミュニケーションがとれないので真相は、わかりません。
3年くらい前までは、車椅子の腰のところにベルトがあって、転落防止のような役目をしていたのですが、それが拘束や抑制になるということで禁止になってしまったのです。でも、座位が不安定な人や不穏になりやすい人は、とても危険が、あります。
まちさんは、ひびの入った足には、ギブスをしていますが少し動かしてもとても痛そうな表情をされるので2人で足にきをつけて介助をしていました。
3週間経ってもまだ、きちんとくっつかず後、2週間の安静状態を再び、診断されました。痛みは、だいぶ治まってきたようでベッドにいることも飽きてきたのでしょう。柵をはずして落としたり、大きな声で騒いだりやんちゃな子どものようです。その度に業務が終了した職員が、絵本をもってきたり、ぬいぐるみをもってきたりして、本人の時間の許す限り、相手をしていました。
食事もベッドで自分で食べていましたが、今度はおなかがいっぱいになると、残した食事をベッドの布団の上に投げつける行為がはじまったのです。
一人で居室で食べているのは、つまらないだろうと職員で話し合いました。車椅子に乗せるわけにはいかないし、じゃあ、ベッドごと、ホールに出してみんなと食事をしてもらおうと考えました。ホールにあるテーブルをどけて、まちさんのベッドが入るスペースをつくり、まちさんにベッドごとホールに来てもらいました。まちさんは、満面の笑顔でとても喜んでいました。他の入居者と一緒だと食事を投げつける行為もでません。
やんちゃなことをしてくれるまちさんですが、私達が、まちさんに何かするといつも「ありがとう。ありがとう。」と両手を合わせて拝むようにお礼を言ってくれるんです。そんなまちさんが、職員みんな大好きです。
2002.12.30