第36回 いなくなる人
こんにちわ、永礼盟です。ご購読ありがとうございます。
我が施設、新しい人が居なくなってしまいました。『新しい人』以前書いたメルマガに、新しい施設長が来た事を書きました。自然なケアで、御入居の心を掴んだ話を書いて行きました。その新しい人が、いなくなってしまいました。
度重なる問題。疥癬や、胃ろう、繰り返される入退院。溢れる家族の不満。全ての問題が、彼の肩に掛かってきました。期間にして数ヶ月、彼は彼のやることを出来ないままいなくなってしまったのです。
いなくなる。そうです、ある日突然いなくなってしまったのです。何も言わず、何も語らず、ある日突然来なくなってしまったのです。もう連絡もつきません。
何処かで、生きているとは思いますが、もしかしたらと思うと、とても心配です。ちょっと前から胃潰瘍を患われ、何も食べられない状態が続いていたみたいですので。それでも、毎日お酒を飲んでいました。たまに、一緒に帰宅するときも、ワンカップ大関を購入し、駅までの道のりを飲みながら歩いていました。
そんな姿を見ていられず、食事に誘い、少しでもご飯を食べて貰おうと思ったこともありましたが、行った先で口にする物と言ったらお酒でした。
問題だらけの我がホーム。自分が進めたいやり方と、会社の方針の食い違い。現場と会社との板挟み。常に職員からの文句に耳を傾けていた事を思い出します。自分では、耐えられないような矛盾した言い分も、冷静に対応していました。勿論、自分も施設長に対し考えを述べていきました。そのそれぞれの考えや不満や、悲しみや辛さを自分に集めようとした施設長。どうすれば、こういう状況を避けられたのかが解りません。ただあるのは、施設長が逃亡したという事実だけです。
逃亡する前の日、私にこうこぼしました。「もう駄目だ....」その晩、施設長に誘われ飲みに出掛けました。その時に、既に気持ちは決まっていたのだと思われ、珍しく会社の批判を終始繰り返していました。
ある秘密を告げられました。その時は、何を意味するか解りませんでしたが、今思うと複雑な気持ちがします。とても重要な秘密でした。いなくなる原因は、その事が大半を占めていると思われました。金銭にまつわる問題でした。その秘密を打ち明けられ、いったん受容しました。
しかし、その次の日からいなくなってしまったのです。自分は、とんでもない十字架を背負わされてしまいました。もう数ヶ月になります。全く音信不通です。ホームのお金と共に施設長がいなくなってしまいました。その秘密が、事実であって欲しいと祈る自分がいます。
いなくなる人と、沢山の犠牲。いなくなっても進んでいく老人ホーム。それぞれの思いが、聞こえない悲鳴を上げている。
自分がこの秘密を打ち明けられたなら、どんなに楽だろう?
2003.11.14
永礼盟