【第17回】特別養護老人ホームの実態(6)
前回、前々回と老人ホームの高齢者のお洒落事情、まず髪型とおしゃれという視点から考えてみたので、今回はファッションと小物、身の回りへの気配りについて話題を提供してみよう。
昔は老人ホームに収容されている身にとっては、自由なおしゃれの衣服や装飾品をみにつけているということはまず禁止ではないにしろ、周囲から浮いてしまう生活となるにしかたがない。憲法19条を根拠に創られた法律を根拠に数々のサービスが措置(注:行政処分)として提供されてきた経緯上やむをえない理由がある。
前々回に書いたシンガポールのとある特養は、集団服?集団介助用服?かははっきりしないが、とにかくサービスを受けている高齢者は男子は水色、女性はピンク色の同じデザインのパジャマを全員身につけている。個人の服や個人の着てみたいと思うであろう服装は、どうして提供していないかと質問すると、「個人の服はむろんその人のもので、名前もはいっているから個人固有の服と言える。」と胸をはって答えられ、ほんまかいなと思ったことがある。
洗濯室で乾燥できた衣服をたたむ実習していたMさんがこっそり筆者の耳元で、「いろいろ衣服をひっくり返してみましたが、どこにも個人のイニシャルのかけらもなかった。素材は、通気性のよい綿の厚目の感じの素材で上着とゴムのズボンがある。おまけにボタンが一つとれていたり、やぶれがあって、たたみをわざと分けて、「こちらの包みは衣服の補修の必要なものをわけました」と職員に報告すると、「ええ。ご苦労さま」と受取り、あっというまに同じ保管場所に一緒にしてしまわれてしまったのが、最大のショックであった。
年がら年中30度を下がることはない亜熱帯の気温条件があるからなのか、簡単にはわからないが、髪形もほぼ散切りしていれば、あと介護サービスの部分であればサイズと男女差が究極わかれば問題ないのかもしれないとも思った。さすがに胸ポケットに番号は縫い付けているものは刑務所ではないので、なかったが。
この施設の職員は、シンガポールに住んでいる住民は少なく、一般にはイスラム圏やヒンズー圏からの就労年限がきまっている出稼ぎ者が多かった。特に介護職員や看護師はそうであった。よって彼女たちの服装はそれどれで、実に民族色豊かな個性的な多民族国家ならではの光景であった。通常は、施設職員は自分の私服を着用して、つまり職員側が制服を着てサービス提供するのに対し、ここでは高齢者がユニフォームを着てサービスを受けているのである。
職員着用の私服の多彩で顔をかくし袖も上着も長い女性も入れば赤い刺青を額にほどこし、サリーをまとる女性もいた。よく考えてみると異様な光景にみえる。こういう施設は、全般的なサービス提供については十分なまとまりを持つ修道会が経営する場合が多かった。着替えのしやすさ、取扱いの仕方などが条件的にそろっているとサービス提供側の論理にはこの制服着用を高齢者に義務つけたこの施設は徹底していると考えられる。
前半でシンガポールの話をしたが、日本の現状について考えてみると、サービス利用者に様々な場面に応じたケアがなされていとは必ずしも言えないが、それにしても大半の施設は個人持ち込みの私服が通常あたりまえであり、洗濯の際なくならないように油性よりマジックや名前がズボンの内側のあたりに書いてある。髪形と洋服の感じで、高齢者の特徴をつかんでいく際の手助けになっていたにちがいないと思うのである。
宗教についてまことに徹底していない施設が日本の非常に多い。祈りの部屋とあって、右側の壁に向けてりっぱな仏壇があり、左側の壁に向けてはキリスト教のレッドカーペンに祭壇がある。信者はそれぞれの方向に互いにお尻をむけて拝めばいいのだが、それもなかなか活用される事少ない。だから、かえって信仰心が足らないから、親子殺しなどが、頻発する世の中になりつつある1つの原因を構成している背景にあるように思えてならなかった。
2005.11.22