【第12回】特別養護老人ホームの実態(2)

2019年3月18日

特別養護老人ホームはどうやって入るのか?と真顔で聞かれてけっこうびっくりしたりする。どうも昔ながらに役場の窓口カウンターで申込書を立ったまま、書かされ、入所できるかどうかは、追って沙汰するという形式だと思っている方が意外に多いのではなかろうか。特別養護老人ホームの敷地に入り、建物にまず立ち入るとすると、確かに受付のような事務室があるが店舗のような構えでも病院の受付のようなカウンターにもなっていない。学校のような造りになっていると思っていただけば宜しいかと思う。玄関のドアは、行きは自動で開くが、帰りはそのままでは開かない。訪問指導に施設廻りしていた頃よく帰り出ようとしてドアが開かないで焦ることがよくあった。

ドアは、内側からは暗証番号を押さないと開閉できない。その暗証番号を伺う度に私は忘れるである。その暗証番号を押す数字板そのものの場所が隠されていたり、壁でもかなり高い場所にある。その玄関を挙がると大概デイルームになっているホールがある。デイルームは食堂を兼ねて構わないという規則があるためホールの続きは厨房になっている場合が多い。これは単なる施設の設計上のスペース確保のための法律の抜け穴である。本当は食堂と厨房はつながっていない方が良心的なデイルームということになる。部屋はただ広いバリアフリーにはなっている多目的ホールになっているが、広すぎてかえって、落ち着かない空間となっている。

お風呂場やトイレも隣接している。お風呂場は、リフト浴と介助浴(湯船の入り口がスロープになっていたり、手すりなどが付いている)の整備が一緒になされているところが多い。寝たまま入れる機械浴というのは、特浴と通称呼ばれて、また別のフロア(入所の階やフロア)にあることが多い。これは、デイサービスを受けながら生活する人は、比較的お元気で、機械浴の対象となる方は少ないと考えられているからである。

気にしてほしいのは、お風呂場ではなくて、むしろ、脱衣場の存在である。特別養護老人ホームは介助浴、リフト浴、機械浴と3種類の入浴設備があるのが普通だが、機械浴には脱衣場なるスペースが基本的には存在しない。つまりお風呂場で、脱いだり着たりできるレベルの方の入浴を念頭においていないわけである。だからカーテンの向こうはいきなり浴室になったりしているわけである。

じゃあ機械浴の人はどこで脱いだり着たりするのかというと居室なのである。オムツをはずしたり、いろいろとって真っ裸にバスタオル一枚かけてストレッチャーで廊下をとおり、機械浴室までお連れするのである。そのストレッチャーごと浴室内に入り、浴槽にスライドして入れる仕組みになっている。なかなか合理的ではあるが、まあ機械浴はお風呂という概念ではなくて、個体を清潔にするという人間洗濯機のようなものだから、あれもこれも望んではいけないわけであるが、あまり心地よいものではない感じがしてならない。

それに比べて介助浴、リフト浴は普通のお風呂場が少し広くなっている程度なので、機械浴より普通のお風呂らしいが、脱衣場の混雑はけっこうすごい。手すりにつかまってたってズボンをあげてたり、椅子にこしかけて靴下をはいたりとするスペースが十分にほしいところであるが、現実はその麻痺や障害の程度に応じて安楽な椅子や床暖房が入っているのころもできているが、相対的に狭いのが脱衣場であり、男性、女性用と分けて時間帯や曜日が異なるように区別して使い回しをしている。

この歳になれば男女の混浴も別にかまわないとおもうかどうかは別であるが、分けてお入りいただく。脱衣場の着脱はともかく、介助職員は老若男女いろいろいるのでおばあちゃんは若いおにいさん、おじいちゃんは若いおねえさんに着替えを手伝ってもらえる幸運をつかんだとはいえるのではないかと思う。幾つになっても女性は女性、男性は男性である。障害者の施設なんかは同性介助というのが基本になっているが、特養において利用者同士は同性で入ることになっているが、介助の職員は男性、女性入り乱れるといことになる。

夏浴室内は強烈なサウナに入っているようなもので、灼熱地獄になるし、昨今のようにだいぶ寒くなってくると、今度は脱衣場の設計に手落ちがあったところが多く、特養の廊下にお風呂場入り口のドアの周りをぐるっとカーテンがかけられるようになっていて、そこで、着脱していることも多い。とにかく廊下は風の吹きさらしで狭いカーテンの中で車椅子の利用者の靴下まで介助するというのは至難のわざである。本当に整っていない、かといって立て換えや大規模な増改築の時期的に当分該当されないためにそういう状態下で入浴している特養の高齢者がたくさん存在するというわけである。

2005.10.16