[75]知的障害者(中)

前回に続き今回も知的障害者について語りたい。今回は知的障害者に対する誤解と偏見について説明をしよう。
よく街中で知的障害者を見かける機会はあるだろう。特に電車やバスなどで障害者優待を受けている彼らに遭遇する機会は多いものだ。その時に知的障害者、特に自閉症の人の言動に不快感や違和感を感じる人もいるだろう。口では「差別は良くない」とは言っていても一般の人と明らかに違う彼らの言動にどうしても戸惑いを感じる人はいるだろう。俺はその事自体は仕方が無いことだと思う。人間どうしても社会基準から外れた言動には嫌悪感を抱きがちだからだ。また中には知的障害者の犯罪報道などを見て、彼ら知的障害者から何か危害を加えられるのではと恐怖感を抱く人もいるかもしれない。だが、安心して欲しい。まずそんな事にはならない。
なぜなら公共交通機関を使いこなせる知的障害者はかなりのエリートクラスだからだ。少なくとも社会適応においては能力がかなり高い人たちだ。無闇な暴力行為など滅多に無い事を強調しておく。電車やバスに乗るにはかなりの知的能力が必要とされる。決められた時間に決められた行き先の電車に乗り、予定された駅で降りる。そして電車やバスが遅延している場合にも柔軟に対応する。健常者には何気ない事だが、これが出来る知的障害者はかなり優秀なのだ。また知的障害者が社会に出るにはある”弱点”が無い事が絶対条件だ。
(1)知的障害者の弱点は?
知的障害者の致命的な弱点は何か分かるだろうか?それは「ストレス」だ。彼らがパニックを起こしたり、暴力行為に及ぶ時はストレスに耐えられない時だ。これは精神障害者でも認知症でも、そして健常者も同じだ。
上の例で言うと社会適応レベルの低い知的障害者の場合、バスや車に乗るとパニックを起こして暴れ出す人がたまにいる。一般の人にはなぜ電車やバスに乗って暴れ出すのか理解できない人もいるだろう。実を言うと、バスや電車などに乗るのは人間にとってかなりストレスのかかる行為なのだ。閉じ込められた環境で行きたい所へいつでも行けるわけじゃない。しかもあたりは知らない人ばかり。自由が抑圧された環境に耐えられない人々がマイナーながら存在する。それが彼らなのだ。
同じようなことは閉所恐怖症の人々にも見られるし、パニック症候群に苦しむ人の中には同じ理由で電車やバス、エレベーターなどを使えず社会生活が出来ない人々も存在するのだ。健常者はそれらのストレスにも耐性があり、言い換えればストレスに対し鈍いためにそのような激発をしなくてすんでいるのだ。しかし、それでも長い時間満員電車に揺られて通勤していると作業能力が落ちたり、感情的になりやすい事が研究で明らかになっている。要は人間ストレスには大なり小なり苦手なのだ。問題は程度の差で、満員電車でも平気な人がいれば、がらがらでもパニックを起こす人がいるのだ。知的障害者の中にもストレスに弱い人とそうでない人と両方の人々がいる。街中で会う知的障害者はある程度ストレスに対する耐性がある人々ばかりなのであまり過度な心配はしないで欲しい。
以上で知的障害者の弱点がストレスにあることは分かって頂けたと思う。彼らの天敵は規律などの自由を束縛するものだ。だから社会適合レベルの低い知的障害者の場合、作業や仕事ができない人々がいる。どうしても仕事や作業などには規律が欠かせないからだ。だが、社会に出て仕事をこなすレベルではなくても、施設で作業はなんとかできるレベルの人もいる。そういった知的障害者が利用するのが授産施設だったり、作業所だったりするわけだ。
だが嘆かわしい事に作業所、授産施設などを建設するとなると大反対する人々が必ず出てくる(詳しくは11号「現実からの逃走」を参照)。知的障害者入所施設なら施設を”無断外出”して地域住民に迷惑をかけることがあるので反対する理由は分からないでもない。しかし、授産施設や作業所を利用するレベルの知的障害者が地域住民に迷惑をかけることはまずない。暴力行為などトラブルになりがちな知的障害者はまず授産施設や作業所には殆どいないのだが、現実は知的障害者というだけで何でも反対と偏見で見られているのだ。
(2)レベルの差
普通の人々は知的障害と聞くと知能が普通の人より劣っていると思いがちだ。勿論それは間違いではない。だが、知的障害者の中にもかなりのレベルの差がある事はあまり思いが及んでいないようだ。知的障害者は個人個人でかなり多様な人々だ。重度の人は排泄や入浴などが一人で出来ないなど、ADL(日常生活動作)にかなりの介護が必要になる人もいる。一方軽度の人は4桁の数字のロックナンバーを覚えて、開錠して無断外出するなど知的能力が想像以上に高い人もいるのだ。特に重度の人は身体障害や合併症がある人が多く医療ケアが欠かせない場合もある。
一般の人は知的障害者の中でも、「賢い」つまり軽度の人ほど犯罪などトラブルを起こしにくいと考える傾向がある。しかし、現実は逆だ。無断外出、盗癖、暴力などの犯罪や深刻なトラブルはむしろ軽度の知的障害者の方が多い。重度の知的障害者は知的能力が低いために犯罪を犯すには至らない事が多い。皮肉な事に悪い事をするにもある程度の知的能力を必要としているのだ。
今回も長くなってしまった。次で知的障害者の全容について最後にしよう。
エル・ドマドール
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[74]知的障害者(上)
[11]現実からの逃走