第7回 幻覚その1

2018年8月26日

こんにちわ。永礼盟です。

段々暖かくなってきました。時折、花のつぼみのせいかな?春の薫りがします。長い冬が明けるのは、もう間近ですね。そんな心地よさとは裏腹に、永礼は、花粉症に悩まされています。もう20年以上も、花粉症とお付き合いしていますので、何の対策もとらずに、出る物は出ると、鼻水を垂らしながらケアを行っています。

排泄介助を終わらせ、御入居様のズボンを上げると、その方の涎が顔にたれます。私が顔を上げると、自分の鼻水で口の回りまでベチョベチョになっています。涎を私の顔にかけた張本人が、私の鼻水を見て、「汚いじゃないのよ~」と、ケタケタ笑っておられ、免疫が、小さな幸せの空間を作っています。

さて、我がホームですが、色々な方が御入居されておられます。最近は、どんな発言をされても驚かなくなりましたが、今までクリアだった方が、急に不可解な事を言い出すときは、驚きというか、何とも複雑な気持ちになります。

要支援だった方が、急に「最近部屋からお金を取っていく人が居て困るわ」と話されるようになったり、「スタッフの人が、私の悪口を言っている。」等の被害妄想的な発言をされる時です。

先輩達は、レベルダウンと呼んでいました。実際に使う言葉かどうかは分かりませんが、我々の現場では、そう呼んでいました。

ここ数週間、突然おかしな発言をされた方がいらっしゃいました。しっかりされている方なので、少し驚きを覚えましたが、レベルダウンとはちょっと違います。その方の発言は、部屋に魚が見えると言うのです。魚とは、海に泳いでいるあれです。あれが、自分の部屋の中で泳いでいるのだそうです。タンスの中に入っては、小さな鍵穴から出てきたり、ケアベッドの手すりの中から大群が出てきたり、とにかく大暴れなんだそうです。

その方は、パーキンソン病を患っておられ、脳を活性化するお薬を飲まれています。その副作用で幻覚が見えることがあるらしいのですが、ここ最近症状が酷くなっています。日中は、そんなに酷くないのですが、夜勤帯に発作のような訴えがあるようでした。「腐った魚たちが私に張り付くの!着替えをさせて!」夜中に、何度も着替えをされるようになったそうです。「知らない人が、私の部屋でお葬式をしている。」「テレビの中から女の子がこっちを覗いている。」「布団の上で女性が新聞を読み、その回りを少女が駆け回っている。」だんだんと、訴えが深刻になってきました。幻覚で夜は殆ど寝ておられないようで、疲れとストレスで、とても攻撃的になられていました。しかし、我々にはどうすることも出来ず、ただ、ただ、お話しをお聞きするしか方法がありませんでした。

その夜、幻覚はとても酷い物となり、御入居様を苦しめました。もう自分の部屋には、戻りたくないと訴えられます。ベッドに寝ていると、ミミズのような虫の大群が背中からウジャウジャと涌き、死んだ人がどんどん蘇って、自分の回りに集まってくる。赤ちゃんが沢山写っているカレンダーの写真を見て、人体実験をしている。もうパニックです。ケアリーダーが、すぐさま対応し、新しい部屋を作りました。ひと部屋、一千万円近い契約金がかかるので、無償でこのような対応した事に、敏速だったと感じます。リーダーには、このような状況判断が必要になってくることを学びました。しかし、移動した部屋にも人が居ると言われ、その夜はずっと車椅子で徘徊していたようです。

翌日、その様子を申し送られ、様子をうかがいに行くと、兎に角部屋中に死体が散乱しているから、掃除をして欲しいと言われました。ベッドは、虫だらけなのでシーツも交換して欲しいとも言われました。眠そうな表情から、昨日の苦しみが想像できました。私は、まずシーツを交換し掃除をしようと、新しいシーツを取りに行きました。すると、後輩スタッフが、パニックになって飛んできました。「永礼さん!永礼さん!吉川様の意識がないんですけど!」そう言われ、さっきまで喋っていたのに、嘘だろ?と半信半疑のまま居室へ向かいました。吉川様に、何が起こったのでしょうか?

2003.04.01

永礼盟