第3回 Kさんの暴力

2018年8月26日

Kさんは、立ち上げ当初から御入居されている方でした。施設に来て、もう一年が過ぎようとしています。この一年、我が施設の代表と言っても過言ではないKさん。このKさんに悩まされ、辞めていったスタッフは少なくないです。

さて、Kさんとは、どんな方なのでしょう?病状は、脳血管収縮による痴呆でした。目に見える症状としては、二重人格があります。ついさっきまでいい人だったのに、急に攻撃的になるのです。

私が、初めてこの方と接したとき、自己紹介をして、紅茶をお出ししたところ、急に怒り出したのを覚えています。「あ~まずい!こんなまずいお茶が飲めるか!馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」その場違いな言動に、他の御入居様もビックリされていました。それが、午前中のお茶の出来事。他の御入居様の悪口を、大声で怒鳴っているのを窘め、このKさんを、他のお部屋をお連れした事から、私の仕事は始まりました。

昼食を食べ、しばらくすると、もとの良い人に戻られました。しかし今度は、何度もお礼を言いに来ます。お礼を言いながら徘徊されているのです。何度も何度も、「ありがとうね」そう言って、他の御入居様の部屋をまわっています。その時、介護歴三ヶ月でした。今までにないタイプに、戸惑う自分がいました。

ご本人様は、先ほどの攻撃的な部分を忘れておられるようですが、他の御入居の方は、ハッキリ罵倒されたことを覚えておられます。その全く違う変貌ぶりに、「頭がおかしいのか?」そう自分に投げかけてこられたのを覚えています。「でも、Kさんがお元気になられてよかったです。」そんな上辺だけの慰めに、不信感を抱く表情をされるのが、とても痛かったです。

あまりにも徘徊が酷いので、手を繋いで一緒に歩きました。私が、このホームに移動になる前、Kさんは、脱走歴があり、見守り必至の状態でした。この日も、そんなに広くないホーム内を、グルグル、グルグルと散歩しました。三階建てのホームで、私:「次は、四階です。」Kさん:「じゃ、次は五階ね。」そんな会話をしながら。

これが、Kさんの徘徊と暴力の始まりです。

2003.3.02

永礼盟