[008]香港からバスで行く広州

現在は生産基地としてはもちろんのこと、市場としても中国が大ブーム、海外で取引をしたことのない人もどんどん中国へ行ってしまう時代ですが、総合商社に長らくいた、しかも中国語のできない私にとっては、中国とはずっと特殊な国でありました。政治体制の問題、インフラの悪さなど耳にタコができるほど聞かされ続けてきたからです。実際に、顔形が似ていることや歴史的ななじみから中国を日本と同じように勘違いして失敗する人の話もたくさん知っていたため中国へ行くのはずっと躊躇してきました。ところが、私がジャパンオフィス代表を務める香港の企業は広州にも本部を置いているため、いよいよ初めての中国、広州への旅立ちとなったわけです。
広州は観光で行かれる方は少ないかも知れませんが、歴史があり華南の商業都市として、また伝統あるトレード・フェア「広州交易会」で有名な都市です。香港人のオーナーから香港からバスで来たらいいと言われ、「初めての中国へバス?どうやって?」という不安もありましたが、郷に入りては郷に従え、しじゅう往来している人の合理性もあると思うしかなく、不安を冒険心にすり替え自分を励ましながら香港空港に到着しました。


空港の警察官にたずねながら、バス・チケットの売り場をさがしあて、そこからエレベーターで降りて乗り場へ。中国語が話せる青年(彼は英語が話せないので国籍すらわかりません)がどのバスが探してくれようとしたものの、結局は私が探し出し、彼に見つけて上げるはめになりました。いろいろな会社が同じ路線で運行しているのです。
途中で香港の出国と中国の入国をすませ(1ケ所でつながっているのではなく、ぜんぜん別の場所でバスから降ろされます。)バスは深セン、東莞と珠江デルタの主要都市を通りぬけ広州へと進みます。景気のかげりか日本の都市はどこもどんよりとチマチマと見えますが、中国の都市はスケールの大きさやおおらかさに目を見張ります。都市と都市の間はえんえんと田園地帯が続きますがここもやがて開発されてゆくのでしょうか。
バスに乗る前出会った青年とはお互いに言葉は通じないものの、お互いの不安を案じながら3時間のバスの旅のあと、終点のチャイナ・ホテルの前でにっこり笑って手をふって別れました。
今回の旅の秘密兵器は中国でも使える携帯電話です。中国語のまったくわからない私が、移動中も広州や香港にいる英語の話せる人たちと連絡を取りながら次々とスケジュールをこなしていくにはこれしかありません。また、広州は治安がいい方ではないという情報もあり、いざという時にも安心です。おかげで日本にいる時より携帯電話ははるかに稼動しており、請求書の金額がちょっぴり心配です。しかしながら、旅先の安心と安全はお金で買えるということも十分実感しました。
河口容子