東京の桜は観測史上二番目に早い開花となりましたが、世相を映したかごとく気候が不安定で満開までにかなりの日数を要しました。きれいな桜の写真が撮れると海外の友人たちにメールに添付して送ります。花といえば桜をさすのは、桜がどこにでも植えられていること、春の訪れの象徴であり、日中とはうって変わって夜桜の妖しいまでの美しさ、そしてその散り際にあるのでしょう。また、入学、卒業、入社、退職、転勤など人生の変わり目どきでもあり、誰の心にも「思い出の桜」がひとつやふたつあるはずです。
先週号の「アジアの憂鬱」を出稿したあと、気づいたのはインドネシアのデング熱の流行を書き忘れたことでした。 4月 1日付けの報道では感染者はもう 4万人を越え、 500人以上亡くなっています。ジャカルタ在の友人に状況を問い合わせたところ、別に仕事に支障は出ていないし、それほど悲観的な見通しではない、それより大統領選の日は暴動が起きるかもしれないのでオフィスを閉めなければならないほうが大問題との回答でした。インドネシアでは天災と人災との闘いです。
「アジアの憂鬱」を読まれたある読者は、たまに大きな視野でものを考えると毎日自分のことに精一杯なのを寂しく感じる、また、大変なのは自分ひとりではない、と思われたそうです。確かに不安要因はたくさんありますが、ひとりで頭をかかえこんでいても、愚痴ばかりこぼしていても悪循環に陥るだけです。私は前向きに生きるにはなるべくたくさん具体的な夢を持つことだと思います。「思えば願いはかなう」、まずは思うことが大切です。
かつて会社員時代は「国際会議に出て、席の前には自分の名前が書かれた名札が立ててあり、出席者は資料のとじこまれたおそろいのバインダーを持って」、というようなシーンに憧れましたが、出してほしいと誰に頼んだわけでもないのに何年かしてちゃんとその役はまわって来ました。
くだらないと笑われるかも知れませんですが、ぜひ見たいものとして「ボーイングの工場」「ジャカランダの花」「ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場でのオペラ」というのがありましたが、これも仕組んだわけでもないのに出張のついでにひとつずつ実現しました。ジャカランダというのは南アフリカに咲く紫色の木の花です。ヨハネスバーグだったと記憶しますが街中が紫の霞につつまれたような写真がずっと記憶に残っています。花の形は違いますが、いわば紫の桜です。この写真から約20年、ロスで車の中から街路樹のジャカランダが咲きはじめたのを偶然見つけたときは人生の不思議さに感動しました。
こうやって小さな夢を積み上げていけば毎日は明るく希望と感動や感謝に満ちたものになるのではないでしょうか。「大儲けしたい」「大出世したい」「もっと良い仕事につきたい」という人もあるでしょうが、これはいまひとつ具体性に欠け、現状の不満の裏返しにしか聞こえません。
「桜を見ないと幸せになれない」という言葉を聞いたことがあります。私が解釈するには、どこにでもある桜をながめるゆとりすらない人間は不幸ということでしょう。桜の季節、あなたの夢は何ですか?
河口容子