[109]お天気の話

 日本人はお天気の話が好きです。手紙も気候の挨拶から始まりますし、商談もお天気の話でスタートすることが多いものです。以前、外国人と日本人の著者がそれぞれの本で異口同音に「日本人は異様に雨を悪者扱いする。」と書いてあるのが、それも立て続けに読んだだけに、非常に印象に残っています。外国人の著者のほうはカトリックの神父であり、「雨も必要だから神様が降らしてくださるのであり、いちいち文句を言ってはいけない。」それよりも「どうしてそんなに明日の天気が気になり、当たらなかった天気予報に対して文句を言わないのか不思議」と書いておられました。
 特に東京ではほとんどの会社員は電車で通勤や外出をするため、雨に濡れると不快、傘という荷物がふえるということはあります。また、それだけ雨天の日が多く、また大雨で災害につながるというケースも多いため雨を嫌がるという傾向にあるのではないかと思います。色とりどりのブランド傘を商品として定着させたのも日本人らしい着眼点といえます。車社会ではブランド傘などあまり意味を持たないからです。お金持ちの香港人は日本製のブランド傘をよくお土産に買っていきます。


 よく雨女、雨男という表現がありますが、砂漠地帯ではさすがにそんなジンクスも役に立ちません。広州に行ったとき、小雨にあいましたが、先に広州入りしていた日本人の知人が「僕が来たときには雨じゃなかったのに、あなた雨女じゃないの?」と私に言いました。すかさず、そばに居合わせた広州の大学生が「広州では雨が降るとお金持ちになると言います。だから河口さんはみんなに幸福をもたしてくれるでしょう。」その時、広州は日本より雨が少ないのだろうとふと思いました。
 オレゴン州のポートランドも雨の多いところです。ポートランドはシアトルの空港があるタコマからはコロンビア川をはさんで南側にありますが、木材の産地として有名です。私は日本人のくせで年配のタクシー・ドライバーに「あいにくの雨ですね。」と言いました。彼は「雨はお嫌いか?わしは好きじゃよ。空気をきれいにしてくれるし、たくさんそれはきれいな花を咲かせてくれるからな。」別名花の都と呼ばれるポートランド市民ならではの言葉でした。
 それにしても今年の異様な暑さと台風ラッシュ、そして大地震には困ったものです。「災害は忘れた頃にやって来る」とよく言いますが、忘れたくても次の悲しみと失望がやって来るのが現状です。香港の若い男性が「自然災害は本当にお気の毒だと思います。日本人が気丈で辛抱強い理由がわかりました。」というメールをくれました。彼は香港のビジネスパートナーの会社のスタッフです。ふだんプライベートな話はしないだけに心に残る一言となりました。
 自然災害と言うものの、少なくとも台風についてはある程度正確な予報が出され、準備や退避をする時間があるわけです。被災地の映像を見るたびに、インフラ整備や防災体制のために正しく税金が使われてきたのだろうかと疑問を持たざるを得ません。被災された皆様にはご健康と一日も早い復興をお祈りしいたします。
河口容子