[127]アセアンから始まる春

 東大寺二月堂のお水取りは古都奈良に春を告げる行事ですが、私にとっての春はアセアン諸国との外交、貿易、投資、観光の関係者が一同に会するパーティから始まります。今年は 3月の初旬、銀座の某ホテルで開催されました。ここはクロークがバンケット・ルームの階下にあり、冬装束を預けてから静々とエスカレーターで受付に上がって行く間合いに心地よい緊張感を感じます。小寒い日でしたが、例年のごとく大勢の参加者であふれかえり、乾杯のグラスを上げたときはアセアン諸国の暑さを思わせたほどでした。
 アセアン関係のパーティでは、イスラム教国のマレーシア、インドネシア、ブルネイに配慮をして豚肉を使った料理は排除されます。アルコール類も普通のパーティよりは控えめの感じです。立食ですが、日本人はスピーチが終わり「お食事をどうぞ。」と言われたとたん、料理の並んでいる所へ行列をすぐ作ります。実は逆の方向からも料理は取れるのですが、どうも誰かの後に並ぶのが好きのようです。料理を自分のお皿に取っても近場のテーブルを占有してしまうので、あとから料理を取りに来る人たちの邪魔です。パーティ会場を俯瞰するとゆっくり料理が取れ、静かに話せる場所はいくらでもあるのです。全体が見えない日本人の悪さがここでも露呈します。
 私自身はアセアン諸国で日本で行なわれる見本市のために出展業者や商品の選定、日本市場への売り込み方法のアドバイスなどを雑貨を中心にやらせていただいてきましたが、最近はどうも「日本離れ」の傾向があるようです。理由としては「最も難しい市場」、つまり「価格はより安く、品質はより良く」と無理な要求をする、その割に発注量が少ない、継続的な発注に結びつきにくい、などです。アセアン諸国の商品は日本では夏場商品が多く、ゴールデンウィークあたりから暑い日が続く年ならまだしも、夏は商機として意外と短く、売る側にとっては最大公約数的な品揃えになってしまいがちです。


 アセアン諸国の雑貨は何度もブームが来ましたが、そのたびにどっと安かろう悪かろうの商品が出回り、アセアン商品のイメージを下げているのは非常に悲しいことです。もともとアセアンには特別な人たちのために作られた美術工芸品のような商品もたくさんあります。残念ながら、ほとんどの日本人は目にしたことがないでしょう。
 今月末から今年のグッド・デザイン賞受賞作品の展示が始まります。日本の戦後の工業デザインの発展に貢献してきた Gマーク(グッド・デザイン賞)をアセアンの商品にも与え、デザインや品質、企業姿勢の良さの証とするものです。今年で3年目になりますが、アセアンの豊かな自然をベースに、欧米で最新のデザイン教育を受けた若手と熟練職人のフュージョンなど年を追うごとに洗練されていくアセアン商品を見るのが楽しみです。
 世界経済フォーラム (WEF)が発表したITの発達度のランキングでは堂々シンガポールが 1位です。米国は 5位、香港の 7位に次ぐ日本は 8位で初めてトップ10に入りました。以外なのは韓国で24位、マレーシアが27位です。タイが36位でインド39位よりも上、中国は41位ですが、インドネシアが51位と昨年の73位から急浮上です。日本では一部の業界、一部の国や地域しかまだなじみの薄いアセアン諸国ですが、多彩さの中で互いにどんどん吸収しあって伸びていく様はまさにアジアならではのバイタリティを感じます。
河口容子