[199]香港長寿の不思議

 厚生労働省が発表した世界の平均寿命ランキングによれば男性1位は香港の79.0歳(日本は 78.53歳)、女性は日本が1位で 84.7歳に対し香港の女性が2位で84.2歳です。僅差とは言いながら、香港はインフルエンザの名前になったり、SARSが流行したりとどうも地理的に感染症が発生しやすく、空気そのものもお世辞にもきれいとは言えません。あの雑踏や空港に着いたとたん毛穴が全開するようなむし暑さはとても長生きとは縁がなさそうな気がします。
 香港は貧富の差が激しく、うなるほどお金を持っている人もたくさんいる反面、寒い時期には凍死する人もいるそうです。香港人はストレス社会で、日本、香港、上海、シンガポールで調査をしたところ、最も労働環境に不満を持っているのが香港だったそうです。香港人の18 %が週60時間以上働いているそうです。香港ではいまだにほとんど土曜も仕事をしています。
 私が知っている香港人のビジネスマンは男女あわせて数十人くらいいます。ほとんどが投資家か経営者で大金持ちか小金持ち、それに大企業のエリートサラリーマンです。彼らのライフスタイルから長寿の秘密を私なりに分析してみると、まずよく働く、動く。定年までサラリーマンでいるのではなく、小さくても一国一城の主になる「老板(ラオパン)」志向の土地柄だけに余計な人間関係のわずらわしさはないのかも知れません。私自身も大企業に勤務していた時の人間関係によるストレスと現在の完全な自己責任によるストレスを比較すると前者は解決不能な状況や相手がいることがありますが、後者は緊張という快い刺激に変えることが可能、また誰をも恨むことがないので迷う事なく後者のストレスを選びます。
 夜型人間。仕事が終わったら家族や友人と夜中の1時くらいまでゆっくり過ごす。東京などと違い通勤時間が短いので朝も比較的ゆっくりできるのが香港スタイル。仕事での外出も短時間の移動ですむのはなんとも羨ましい限りです。
 楽しんで食べること。香港人はそんなに親しくなくても「一緒に食事をしましょう。」とよく誘ってくれ、誘った人が全員の食事代を気前良く払ってくれます。彼らにとって「皆でわいわい」はおいしさのひとつの要素であるようです。
 予防医学の意識があること。医食同源の言葉通り、たとえばカニは体を冷やすので体を温めるジンジャーティーと一緒にいただく、というようなことを私も教えこまれました。私の香港人の知人で喫煙者はゼロ、皆アルコールもたしなむ程度です。
 唯一、私にとって不思議なのは「家族」観です。一時は落ち込んだ結婚率や出生率も最近元に戻りつつあるそうです。理由は家族を持つという価値の再認識だそうです。香港はお金持ちであろうと共働きが多く、家事や育児にはメイドを雇う人も多い。彼らの会話を聞いていても「主人が」「家内が」というフレーズはほとんど耳にしません。理由としては夫婦ともに多忙ですれ違いかほとんど別居状態の人も多々います。もちろん夫婦仲が良いわけではありませんが、別に離婚したいわけでもなく、互いに勝手気ままができ家庭を持っているという対面も保てるということで双方納得しているようにしか見えませんが、これを達観していると取るか、究極のエゴと取るか、合理的と取るか。。。
河口容子