私が勤務していた総合商社では社内の報告・連絡・相談・決裁のルール、取引先に接する方法、与信管理やクレームの処理など基礎的なものは「基本動作」と呼ばれ、この基本動作が自然にできるようになって初めて「一人前」でした。この基本動作は経験を重ねなければ習得できません。また、経験豊富な上司や先輩が部下や後輩にノウハウを伝えていくことも非常に大切です。
日本中を恐怖に陥れた「農薬入り餃子」事件ですが、日本の行政、輸入者も含め危機意識がなく、基本動作がお粗末な気がします。このニュースを聞いた時、餃子の中味に入っている野菜の残留農薬で重篤な症状に陥る確率はまず低いと直感しました。1つの餃子に入っている野菜の量は微々たるものだからです。また、私自身途上国のさまざまな工場を訪問したことがありますが、大手の工場は最新の設備を持ち、衛生基準のマニュアルもきちんと整備されており、日本の古い工場が恥ずかしいほどです。また、きちんとした工場でない限り日本の大手メーカーは契約を結ばないはずです。要はルール通り製造されていれば農薬の混入は考えにくいのです。餃子そのものだけではなく、梱包剤の製造と保管に問題がなかったか調べたのでしょうか。
当初私が疑ったのは故意の犯罪です。中国のメーカーの労使関係のトラブルから中国側で何者かが嫌がらせにメタミドホスを注入したのではないかという説もありますが、日本で誰かが注入した可能性が絶対ないとは言えません。メタミドホスは日本では流通していないというのを理由とすれば、オウムによるサリン事件もあり得なかったことになります。残念ながら日本には毒物による事件が多く、古くは森永ヒ素ミルク事件、江崎グリコ・丸大ハム・森永乳業・ハウス食品を標的とした毒物入り製品による脅迫事件などもありました。製造元を調査すると同時にこうした殺人未遂事件としての可能性を最初からどうしてもっと精査しないのか不思議です。
中国産のほうれん草の残留農薬報道以来、私自身は生鮮野菜は国産しか買いません。冷凍食品も原産国を全部チェックします。ただ、中国製と書いてあっても日本の大手ブランドの製品なら信じて買うのが消費者心理ではないでしょうか。ブランドのブランドたるゆえんは「品質の良さと安全性」にあります。中国の提携工場に任せきりではなく、もっとキメ細やかなチェック体制があっても良いと思います。そうでなければ、単に利益追求、それも中国との経済格差をそっくりそのまま自社の利益としているだけに過ぎません。これは冷凍食品のみならず他の中国製品にもいえることです。
私の周辺では「中国で作らせる」「中国に発注してあげる」というような表現を当たり前のように使う日本のビジネスパースンたちがいますが、どうして「中国で作ってもらう」「中国から買わせていただく」という発想はないのでしょう。二極分化の時代に入り、年収 200万円以下の勤労者が増えても、貯蓄ゼロの世帯が増えても何とか暮らしていけるのは安価な中国製品のおかげもあります。
「いったい私たちの暮らしにはどのくらい輸入製品があるのかしら」という呑気な中年主婦の方がいらっしゃいました。私の答えは「一般家庭なら90%でしょう。それどころか輸入しなければ電気もガスも使えませんよ。あなたの自動車も走りませんよ。」日々の生活をほとんど輸入に委ねるということは安全保障の面からは大きなリスクであるという認識を日本人全体が持つべきだと思います。
(本原稿は2008年2月4日午前までの情報を元に書かれています。)
河口容子
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