[180]WBCに学ぶ国際ビジネス

 私はスポーツ・ブランドの仕事をしていたことと、またスポーツの国際試合というのは何か国際ビジネスに通じるものを感じ、よくテレビで観戦しています 。WBCでの王ジャパンの優勝は列島中を熱くさせてくれました。そもそも今年は冬季オリンピックとサッカーのワールド・カップが目玉で当初一般の人は WBCにはあまり注目していなかったような気がします。
日本はアジアで一番としても米国やキューバ、ドミニカには勝てないだろう、と普通の人は思っていたことでしょう。ところが1次リーグで韓国に敗れ、2次リーグでは塁審のジャッジ・ミスもありまず米国に敗れます。ここで発揮されたのは日本人の伝統芸「判官びいき」で、弱い者いじめやえこひいきはけしからん、とばかり日本中の人が WBCに眼を向けます。続く韓国戦でも2連敗目を味わいます。おそらく当初の予想とは違うことがいろいろ起きている、と皆が思い始めたに違いありません。続く、メキシコ対米国戦ではジャッジ・ミスに奮起したメキシコがまさかの勝利。日本は準決勝への切符を手にしたのです。もし、ジャッジ・ミスでメキシコがやる気をなくしたら日本の優勝はなかったと言えます。ここでの教訓は、ビジネスの世界でも逆風が吹くことはありますが、負けてはだめだということでしょう。また、あきらめていたところに運命のめぐりあわせで幸運が舞い降りて来る、これもビジネスにはあります。
 つかんだ運を離さず、気持ちを切り替えてチーム・ジャパンらしく戦ったというところが今回の勝因だったと思います。「技術」「チームワーク」「献身」「知性や感性」「集中力」などという言葉が評論に踊っていましたが、これらは日本のビジネスの強みとまったく同じでしょう。最近はビジネスの世界でも「個」ということが強調されていますが、それぞれが「個」をアピールしあっても良い仕事にはならず、チームの中でのハーモニーが大切だと感じます。指揮官たる経営者や管理職は個々の強みを引き出し育て、またそれぞれの弱みを補完させるような組織づくりが大切で、勝てば「名将」と呼ばれますが、負ければ「ただの人以下」に叩かれるのもスポーツと似ているような気がします。
 私が一番心に残っているのはイチローの「二言三言言えば十わかってくれるからこのチームはいい。アメリカでは十わかってもらうには十五言っても足らないことがある。」というような言葉です。国際ビジネスはまさにその通りで、何度同じことを言ってもわかってもらえない、ないしは実行してもらえないという事がよくあります。元来、気が短い私は怒りを通り越してしまい、いつしかわからない理由を文化、政治、経済、社会構造などから研究するのが趣味になってしまいました。
 この「二言三言で十わかる」のも日本人の特徴で、まず主語や述語が欠落する文章がたくさんあり、また同音異語が多い、文章の最後まで聞かないと意味がわからない文法などという言語的特性から「推測」能力が発達するせいと私は感じています。時には「邪推」が一人歩きすることもありますが、相手が嫌だと察すれば口には出さないという習慣も出てきます。また、先に気をまわして相手を楽にしてあげるという配慮もはたらきます。ところが、外国人はそうはいかず、ノーである理由をいちいち説明せねばならず、気がきかないとはらが立つこともしばしばです。逆に外国人側も日本人に対し、それなりに嫌なことがたくさんあることでしょう。まずは豊富なコミュニケーションあるのみです。
河口容子

[171]なぜか出て来た一夫多妻制の話題

 経済成長著しいロシアでは一夫多妻がふえているとのニュースを見ました。地方に妻子を残し都会に出て来て一旗上げた男性が都会で新しい妻とその子どもたちと住んでいるケースが増えているのだそうです。1970年のビットリオ・デ・シーカ監督ソフィア・ローレン主演の映画「ひまわり」を何となく思い出しました。ロシア戦線から帰って来ない夫を探しあてた末に妻が見たのは夫と新しい家庭であったというストーリーです。
 ロシアのように勝ち組と負け組が明確になると、日本でも結婚したくても経済的に余裕のない男性と地位もお金もある男性に女性が群がるという事実上の一夫多妻制社会になるのではという議論も出て来ました。事実、バブル以降、シングルマザーは増え続けているのだそうです。バブル時代の大きな社会的変化として男女雇用機会均等法があります。世間の目の変化もあるでしょうが、女性が経済力を持つことにより、シングルマザーを可能にしたとも言えます。たとえば、総合職の女性の場合、出産と育児のために退職し、中年から再就職するとしても経済的な損失は約1億円という記事を読んだことがあります。1億円のみならず、夫がリストラに遭うリスクや、自分が再就職できないかも知れないリスクまで考えるとおいそれとは結婚はできない、でも子どもはほしいという女性はかなりいます。経済的な理由で子どもを持てない人もいれば、異なる理由で子どもを持てない人もいる、いろいろな角度から少子化対策は必要なのではないでしょうか。
 現在の一夫一婦制は、キリスト教の教義から来ているもので、キリスト教社会がグローバル・スタンダードになって以来、一夫一婦制が近代化の象徴のようになったような気がします。日本も源氏物語にあるように平安貴族は一夫多妻制であったし、現在でもお金持ちの男性が正妻のほかに「お妾さん」「愛人」を別宅に囲っているのは珍しい話ではありません。女系天皇を認めるかどうかの議論で「男系天皇は側室制度により維持された」「今更側室制度の復活は国民に支持されないだろう」などという意見まで飛び出す始末でなぜか堂々と一夫多妻制に話題は向いているような気がします。
 一方、チェチェン共和国では男性人口が極端に少ないことから、イスラム教徒が多い地域だけあって一夫多妻制の復活を唱える人も出てきたということです。イスラム教の一夫多妻制はもともと女性が外で働けないため、寡婦などの救済策としてあるという話を聞いたことがあります。ところが、アセアンのイスラム教国は、女性のほうが働き者です。それでも一夫多妻制は可能です。夫が第二夫人をもらう場合は第一夫人の許可が必要です。それを「嫌」と言ったばかりに第一夫人が離婚されたという話を聞いたことがあります。要は第一夫人になる人はある程度度量が大きくなくては務まらず、一見男性優位に思える一夫多妻制も夫が複数の女性にハラハラ気を遣って暮らさなければならないだけではないでしょうか。イスラム社会の人口増加により、この一夫多妻制の話題が出やすくなってきたようにも思えますが、国際的には一夫多妻制があるなら、一妻多夫制もなければ平等ではないという論議もあります。
 日本のある実業家は愛人数人を各事業部門の長に据えていると聞きました。接待などには社長と愛人全員が顔を揃えるそうですから、イスラム世界顔負けのその光景を一度見てみたいものです。ご本人たちはどう思っているかわかりませんが、競い合うことでおたがいの能力が磨け、会社の業績も伸びるわけで、案外、仕事面では安定した仲間なのかも知れません。
河口容子