香港と中国市場に日本製の消費財を輸出し始めて丸3年になります。よく日本人から「日本の高い商品が中国で売れるのですか」と聞かれます。日本製、あるいは中国製であっても日本企画であり、それが中国人消費者にとって価値を持つ商品なら日本の小売価格より高くても問題はありません。ご存知かも知れませんが年収 2千万円以上の人口は日本よりも多いのです。また、社会構造も違います。女性もほとんどが仕事を持っていますし、男女同一賃金です。住と食はぜいたくをしなければ、日本に比べればとんでもなく安く、可処分所得が非常に高いのです。ただし、どんな商品にも飛びつく時代は去りつつあり、輸入品を買える層は高いものならインターナショナル・ブランド、それらに比べて日本製品はお買い得感があれば買う、といった状況になっている気がします。
一番の問題は価格ではなく模倣品対策です。中国では軽工業品なら 2-3ケ月もすれば模倣品が出て来ます。ある日本の企業に「御社の商品を中国向けに出荷してほしい」とお願いしたことがありましたが、「中国に輸出すると模倣品が出て来るから」という理由で断られました。私自身はこの見解は時代遅れと思います。日本で展示会に出展したり、日本市場に出回っている限り、その商品情報は誰でも取れるわけです。日本でも「知る人ぞ知る」程度の商品であったりするのにちゃっかり中国で大量に模倣品が安値で出回っていたりするので、中国人のほうが商品選択眼はすぐれているかも知れないと腹がたつのを通り越して妙に感心することすらあります。最近は中国の一流百貨店やショッピング・モールでは「真正品」である証明書を日本のメーカーに求めるなどして模倣品対策をしているようです。
こんな例もあります。日本のキャラクター・グッズですが、中国の委託工場で生産をしています。日本の展示会で香港・中国からの引合がふえて来るようになったので本格的に中国市場での販売を考え始めました。ところが中国市場にその製品はすでに出回っていました。日本企業は中国工場からの横流しを防ぐために生産した商品はその都度全量日本に輸入しています。また、日本でも誰もが知っているというほどのキャラクターではないので、わざわざ模倣品を作るメーカーがいるとは考えにくい。おそらく、生産管理は日本企業と工場の間に専門商社が入って行なっているため、材料の管理などがきちんとできておらず、工場が勝手に生産して中国国内に出荷していたものと思われます。また、中国の委託工場がだまって商標権を登録しているケースも耳にします。日本企業はコストダウンばかり考えず、知的財産権も忘れず考慮することです。その名のとおり財産であり、権利を主張するならば守る義務もあるはずです。
先日、中国の消費者の模倣品に対するアンケート結果の記事を見ましたが、模倣品は困ると答えたトップは「薬品」「化粧品」でした。「化粧品」は何だニセモノか、でもすむかも知れませんが、「薬品」とはおそろしい限りです。一方、模倣品でもかまわない商品に「CD」や「ビデオ」「DVD」がありました。これらの海賊版はいわば庶民の楽しみ、厳しく規制すれば暴動が起きるとの説もあり、経済発展の影の部分を見る思いがします。
河口容子
[139]世界の起業家事情
国際調査機関のグローバルアントレナーシップ・モニターが世界の35の国と地域で「起業率」の調査を行いました。トップはペルーで40.3 %、次にウガンダで31.6 %、第 3位がエクアドルで27.2 %です。私はこれらの国々に行ったことがありませんが、10人のうち 3-4人が自分でビジエスを始めるということは、資本があまりなくても、あるいは特に優れたスキルがなくてもビジネスを開始できる環境にあるか、「雇用される職場」が少ないかのいずれかにあたると思います。
実はこのニュースは香港で話題となりました。香港はもともと「老板(ラオパン)」、個人商店主つまり起業家の伝統のあるところです。ところがこの調査では何とビリから 3番目で3%という数値になりました。香港中文大で学ぶ本土の学生が起業志向が強いのに対し、香港人の学生は大企業に就職したがると言います。広東省深センでの起業率は何と11.6%で米国の11.3%より少し上です。それだけビジネスチャンスがまだまだ本土にはあるということでしょうか。一方、香港には安定した職場がふえているとも言えます。
さて、だんとつビリはやはり日本で1.5%。 100人いれば1人か2人しか起業しないサラリーマン大国です。起業といっても今話題のヒルズ族のようなIT企業から小さな雑貨店や私のような専門職的なサービスの会社まで含めてこの数字しかありません。理由としては、まずはコストが何でも高すぎることです。起業してすぐ大黒字になるケースはまれですから、かなり資金的に余裕がなければ起業ができません。大企業、知名度優先のビジネス社会になっていますから、新規の小さい企業が実力を認めてもらうにはかなりの努力と能力を必要とします。起業するのが偉いとは思いませんが、起業家が少ないと活力や柔軟性に欠ける社会にならざるを得ません。一方、納税者番付けのトップは初めてサラリーマンでした。成果主義の導入を象徴するもので素晴らしいと感じますがこれでますます起業家が減るのではないかと心配もしたりします。
マニラの日本大使館に勤務する日本人女性から聞いた話です。「マニラのホステスたちはお金をためて郷里で雑貨屋をやりたいと必ず言うんです。田舎じゃたいして売れないだろうし、仕入ルートをきちんと確保しているわけでもないから儲かりもしないでしょうに。」ところが、これはマニラのホステスだけの話ではなく、香港人のちょっとお金を持っている人の間でも本土の親戚をたよって本土でお店を持つのが流行っていると聞きます。この話を上海で合弁企業をもつ日本人の男性にしたところ、上海でも故郷でお店を持つのが流行っているとか。日本人でも故郷に錦を飾るという言葉がありますが、私の持つイメージは立身出世して派手な身なりで郷里に帰り御殿のような家を建てるというようなもので、故郷でお店をやりたいと言う話はまず耳にしません。この違いは謎です。
河口容子