大手日系メーカーが中国本土の現地法人を従業員に乗っ取られ、香港法人の日本人所長も共謀した疑いがある、という事件が起きています。中国本土の法人を乗っ取られただけでなく、もうひとりの香港人エンジニアに顧客情報や製造に係わる機密情報まで持ち出され、日本のメーカーのライバル企業になってしまったというおまけつきです。本社の被害は約 2億円、それにこのライバル法人との競争で毎年損失を計上する可能性もあるといいます。信用した社員に任せきるという日本企業のリスクマネジメントの盲点と成長すさまじく「何でもあり」状態の中国ならではの事件とも言えます。
香港の中小企業連合会によると本土で展開する 5万 5千社の企業のうち10%が社員に横領をされているということです。中国と香港を往来するプロの横領社員のブラックリストができたというニュースも聞きました。もともと香港は中小企業が多く、また転職社会でもあり、社員による横領の話はよく耳にしました。従い、同族での経営が多く、他人である社員には重要な仕事は任せません。たとえば、私の香港パートナーの会社でも商品サンプルはパートナー自身が倉庫に鍵をかけて保管しています。ボスが不在のときに社員がサンプルを持って商談などはできません。何とも非効率的な話なのです。私の会社に送金をする際は私がサインした請求書を送れば彼らの銀行が送金手続きをしてくれます。社員が銀行に送金依頼の用紙を記入するなんてこともありません。私自身はパートナーとの決済に関しては英語の帳簿を日本で保存していますのでいざとなれば私がその帳簿を彼らに開示してチェックができるシステムにしています。社員より外国人の私を信用しているわけで笑いを通り越して寒いものがあります。そんな香港人でも上記の被害にあっているわけですから、お人よし日本企業は注意に注意を重ねてもまだ足らないくらいです。
[115]気配り名人は詐欺をも防ぐ
10月から JETRO(日本貿易振興機構)のTTPP(貿易の B2Bサイト)ニュースレターにリスクマネジメントのコラムを連載させていただいております。11月号にはVISA取得詐欺というテーマを取り上げました。
VISA取得詐欺というのは、インターネットを通じて日本の企業に商談を持ちかけ、日本へ出張するのでVISA取得書類の準備を手伝ってほしいというものです。ところが、VISA取得書類を手伝った後、連絡が取れなくなり、商談の日にも現れない、当該国の日本大使館に問い合わせたところ、VISAは発給されていることが確認され、どうやら最初からVISA取得を目的とした詐欺であったことが判明するというものです。これは、日本側の企業に金品での損失がないため、報告されていないケースも多々あろうかと思いますし、「何らかの事情で来られなかったのだろう。それにしてもいい加減な人だ。」くらいで済まされた場合は詐欺であることも気づいていないかも知れません。
まず、途上国から日本へ来るには短期の観光や出張であっても入国VISAの取得は大変手間隙のかかるものであるということを認知しておくべきです。私が過去中国の方をお世話した際は、往復の航空券を購入していることの確認や、来日の目的や日程と宿泊先、企業訪問であればその企業が身元引受人となる旨の公式文書と提出しなければなりませんでした。まるで犯罪者扱いです。インドネシアの知人からはVISA取得の際に本人の預金通帳を提示する必要があると聞かされました。要はある程度貯金があり定収入があれば日本で不法就労する可能性は低いというチェックのためです。