[250]香港人と夏

 2003年 7月24日号「香港一家がやって来た」で触れたように私にとって夏の季語は香港人のようで、 7月以来香港から来る案件ばかりに押しつぶされそうになっています。
 会社員の頃から香港ビジネスマンたちと取引経験がありますが、中小企業のオーナー達はお金持ちでいかにお金を増やすかに始終頭をめぐらしており日に何度も方針が変わるなんて朝飯前。たとえば香港向けアパレルの輸出の話があり、日本のメーカーとえんえん話を詰めた段階で「PCのビジネスのほうが儲かるからアパレル買付資金はPCへまわすことにした」と香港から電話 1本で話をひっくり返されてしまった事があります。この香港人、上司と非常に親しいというので信頼していただけに目が点になった後、気がぬけて呆然としてしまった事があります。実はこの会社員時代の経験が2002年11月14日号「香港億万長者とビジネスする方法」に生きています。
 香港人は悪く言えばせっかち。思いつけばすぐばたばたと行動に移します。「会社のお金」ではなく「自分のお金」意識ですから誰に遠慮することもありません。また、日本人のような専門性へのこだわりや会社の社会的意義だのと難しい事も考えませんので、儲かると思えば新しいビジネスに勇猛果敢に取り組んでいきます。買収や自分の会社グループのスクラップ&ビルドもあっと言う間にやってしまいます。この辺が日本人から見れば香港人は「何をやっているのかよくわからず信頼できない」、逆に香港人から見れば日本人は「愚鈍、保守的」とこうなります。
 私の仕事は彼らの構想を基に相手にとってベストなビジネス・スキームを組みたて必要な企業や人材の配置を行い、さらに実務上のサポートをしていくことです。構想そのものが甘い場合はわざと相手をじらして熟慮、再考してもらうことにしています。相手は最初、私が嫌がっているのかな、仕事がのろいのかな、と不安になるようです。しかし、構想が煮詰まったとたんにお膳立てはさっと整い、今度は私が「早くやりましょう」とせかすので相手はうろたえ、「少し整理する時間をください」となります。この決して相手に振り回されずに必要なことにはきちんと時間をかけ、すぐできるものは鮮やかなほどのスピードで誠意をもって処理する、というのがどうも信頼や評価を得ているポイントのような気がします。
  7月には香港の知人が夫婦で北海道1周旅行、その後東京にやって来て打ち合わせました。事前にメールで相談した案件以外に2件もプロジェクトを持って来て私に手伝ってほしいと言うのです。最初の1件だけでもかなり難度が高いのに、有難いような迷惑なような、と思っているところに、8月になって香港のビジネスパートナーがこれまた北海道に講演に行きました。かなり評判は良かったらしく、いろいろ新規ビジネスを考え始めたのか、何度もチャットで呼び出され、おまけに「私の会った日本人は皆ほとんど英語ができなかったのであなたがフォローすると言っておいた」という按配です。私は事前に一切何も聞かされていないのでたまったものではありません。ただでさえ風邪で絶不調のところに、はっぱをかけたいのか電話まで香港からかけられたまったものではありません。元学者だけあって、頭だけどんどん先行してハイテンションになるのが毎度。そこで打ち水とばかりに「○○とXXを整理していただかない限り、私は前へ進めません」と「考え中」の絵文字つきでチャットで返すとしばらくして頭が冷えたのか全容が見える内容に。しばらく別件にかかりきりでおとなしかった香港のビジネスパートナーですが、相変わらず2005年 9月 8日号たとえたように「嵐を呼ぶ男」のようです。あとは私の最も暑い夏が無事に過ぎるのを願うしかありません。
河口容子
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[249]ラフィダ節炸裂

 毎年ラフィダ・アジズ国際通商産業大臣をリーダーとするマレーシア貿易・投資ミッションが極東ツアーの一環として日本にやって来ます。昨年は東京で開催されませんでしたので 2年ぶりに某ホテルで開催されたセミナーに出席しました。
 さすが閣僚がミッション・リーダーというだけあって官民60名ほどのメンバーからなり、事務局が非常に入念な準備をしているのにいつも感心します。複数の機関からご案内をいただくのですが、参加申込を行なうと東京の事務局であるマレーシア工業開発庁東京事務所から書面(封書)で申込の御礼が来ます。東京だけで数百名の参加者だと思いますので大変な事務作業だと推察します。この集客力はやはり主催者がいかにきちんとした後援団体を集め、チームワークで告知をするかにかかっています。
 そして当日の資料が充実していること。もともとマレーシアはパッケージ・デザインなどに非常に優れているお国柄だけあって、政府機関が出している刊行物のデザインも洗練されています。紙も分厚くて高級感があります。ミッション・メンバーのリストブックが実に良くできていてメンバー全員の顔写真に連絡先、所属する機関や企業の概要、各地でのプログラムにちょっとした統計数値までついています。小さな手帖くらいの大きさですが、記念品をいただいたような気分になります。
 日本の経産相の挨拶があるのもこのセミナーの特徴ですが、私が参加しただけでも平沼、中川、甘利と大臣は変わってきており、ラフィダ大臣の在職20年というキャリアはいかに有能かつパワフルな女性であるかを物語っています。日本人の講師が彼女を「マレーシアのセールスレディ」と評しましたが、ジョークを飛ばしながら、決してキレイ事は言わないのに憎めない、これは実務能力と経験に裏打ちされた自信のなせる技でしょう。彼女の歴史はマレーシアの産業の歴史でもあり、女性の社会進出の歴史でもあるような気がします。残念ながら最近の日本の女性閣僚には彼女ほど迫力のある人は見当たりません。
 マレーシアは投資先として政治、経済、社会が安定しており、エネルギーコストが安い、ハイテク産業が多く、サポート体制が整備されている、英語のスキルが高いというメリットがあります。また、生活環境もアセアンの中では快適です。昨年は日本からの投資が復活、すでに投資している企業の多角化、R&D 、物流などに再投資がすすんでいるそうです。
 マレーシアには外国人を対象とするいわゆるロング・ステイ・ビザがあります。現在11,000人の外国人がこの「マイ・セカンド・ホーム・プログラム」を利用しているものの、日本人はまだ 440人だけです。ラフィダ大臣いわく「マレーシアにはアジアがあります。マレー人、インド人、中国人など多くの民族が共生し、活力の源となっています。中国も日本もアジアではありません。シンガポールみたいな小さいところもアジアではありません。」とまさにラフィダ節炸裂。おまけに「私の泊まっているホテルの 1泊分でマレーシアに 4泊できますよ。航空運賃も入れてね。マレーシアのホテルは本当に安いの。安かろう悪かろうじゃなくて、中味も良いんです。皆さん来てくださいね。」
 このセミナーの最後に独立行政法人中小企業基盤機構とマレーシア中小企業開発公社(SMIDEC)との協力関係構築に関する覚書締結調印式がありました。今後は日本の中小企業からの投資や中小企業どうしの技術、販売、人材育成などにおける提携に注力したいという事ですが、単なる情報交換や助成金の管理窓口で終わってしまわないよう二国の中小企業の相互発展のために真摯に取り組んでくれることを期待しつつ私は会場を後にしました。
河口容子
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