[194]久しぶりの中国投資セミナー

 久しぶりに中国の投資セミナーに行ってみました。知人の投資コンサルタント会社がアレンジしたもので、浙江省長興経済開発区を対象としたものです。昨年は中国投資セミナーラッシュでしたが、今年はかなり減っているような気がします。また、昨年は反日運動のさなか、直前の案内であったにもかかわらず大入り満員であったのに、今回は空席のほうが目立つありさまです。セミナーの表向きの成功は主催者の集客力いかんにかかっているとはいえ、 5月にベトナム大使館で行なわれたハイフォン市への投資セミナーのあふれるような聴講者に比べると、やはり投資のトレンドはベトナムへ移っているような気がしました。ハイフォンはハノイの外港で、日本の ODAにより港湾の整備、空港の整備、ハノイからの高速道路が建設されている都市です。日系の工業団地はほぼ満杯と聞きましたし、地方政府も日本企業の誘致に熱心です。「日本国ハイフォン県」という冗談も飛び出したほどです。
 さて、長興に話を戻しますが、長興は長江デルタに属し、淡水湖である太湖を囲む形で「上海」「蘇州・無錫」「杭州・長興」の3つの経済圏が形成されています。「西遊記」」の作者呉承恩は1566年に長興の事務総長に任命され、また「茶聖」陸羽は長興の顧渚山に住んでいたそうです。もともと米、魚、茶、ギンナン、ウリ、クリ、ウメの産地という自然の恵み豊かな所ですが、上海、蘇州、無錫、杭州などで工業用地不足や人件費の高騰が見られ、新たな投資先として長興が着目されているようです。
 中国の工業団地のセールス・トークに多いのは「電力」「水」「ガス」がきちんと供給されます、汚水処理設備、通信網、道路網が整備されています、というものですが、日本人にとっては何が自慢なのかわからず、暑い日の昼下がりとあってききすぎた空調の中で居眠りをする聴講者の姿もちらほら。外資を導入するための設備でこのレベルの話なら一般住民はどんな暮らしやらと心配になってしまいます。
 私はある笑い話を思いだしました。日本に長らく住んでいる中国人の知人は学生時代に中国で日本人観光客のガイドをしていたそうです。おそらくもう20年以上も前のことです。観光バスの中から「これが○○で初めてできた歩道橋です」と一生懸命案内しても日本人はいつもなぜか無反応でした。後日、この中国人は日本に来ていたるところに歩道橋があるのを発見、日本人がなぜ無反応だったかを知り、大変恥ずかしかったと言っていました。これと同様、日本のインフラ整備のレベルを知ったら、上記はセールス・トークにはならないと気づくのではないでしょうか。
 長興は全国経済大県のトップ 100に入っているのだそうですが、教育県としても有名で中等(高等ではない)専門学校以上の学歴がある人材が1万人に502人で全国平均の1万人に230人をはるかに上回っていると資料に書いてあります。日本では全日制高等学校への進学率は95% ほどあり、短大、専門学校を含めた高等教育への進学率も50% 近くあります。自分のわがままで学校へ行かないということが大変なぜいたくであることがこの数値の比較でよくわかります。一方、長江デルタの新興工業都市でこのレベルということは、日本人には想像もつかないほどの格差社会が中国には広がっているといえます。
河口容子

[193]夢を紡ぐ人たち

 2006年 5月25日号「アセアンがくれる LOHASな暮らし」で取り上げた展示会の商談会がありました。アセアン諸国から出展者が一同に集まり日本の企業と商談を行なうためです。私は現在ベトナムでの雑貨づくりをお手伝いしている企業の社長をお誘いしました。この企業の商品は和のテイストを取り入れたものが多いのですが、同じアジアの文化には和の文化と共感する部分はありますし、健康や癒しといったテーマを得意としていることから参考にしていただけるのではないかと思ったからです。
 社長の目にとまったのは、カンボジアのクッションでした。表地は日本のかすりの着物を想い起こさせるような手織りの絹。外繭を使うため糸の太さが均一でないところに独特の風合いがあります。(内繭を使うと信じられないほど細やかな絹織物になります。)クッションの中味は天然の綿がぎっしり詰められ、キルティングのように格子状にしっかりと縫ってあります。天然綿をぎっしり詰めてあるせいか座ってみるとお尻が沈みこまないので背筋がしゃんとします。伝わってくる気合が粗製濫造の工業製品との違いです。
 「私も大好きでプレゼントによく使っています。」と説明をしてくれたのは、このカンボジア企業に勤務している日本人女性です。彼女はもう7年カンボジアに住んでおり、もともとは遺跡の研究者でした。カンボジアの文化に魅せられ販売の仕事に就きました。この企業は従業員が 1,000人おり、もともとは政府が貧しい人の救済のために始めた事業だそうです。民営化した今では、豪華リゾートホテルやフランスのお城の内装も行なっているそうです。カンボジアは暑い時期は45度を越えます。また、「後発途上国」に指定されている世界で最も貧しい国のひとつです。そのような環境の中でおそらく辛いことも何度もあったと想像しますが、少しずつ夢を紡いでいるような印象を受けました。商談ではカンボジア人のスタッフもまじえ英語で話してくれた彼女ですが、スタッフにあざやかなクメール語で指示をしていた姿に日本女性の持つ芯の強さやしなやかさを感じました。
 さて、同行の日本企業の社長からは周囲を見回して「ずいぶん西洋人の出展者も多いのですね。」と質問。カンボジアは内戦で未亡人となった女性、地雷で身障者となった方々をサポートするために現地に住んで技術指導や自立を助ける活動を行なっている西洋人がたくさんいると説明したところ、「素敵な商品の数々、大変参考になりました。将来的には、このようなメーカーと、コラボレーションして、社会貢献という視点からの企業活動も考えてみたいと感じました。」とおっしゃいました。この社長の夢も日本でのものづくりが、中国、そしてベトナムもとグローバル化をとげ、社会貢献へと糸が紡がれつつあります。
 実は私の香港のパートナーも中国の貴州省で少数民族の文化保護の NPO活動を行なっています。貴州省は少数民族が多く中国の中でも最貧省です。ビジネスインフラが悪いために資金源となるビジネスを起すのが難しく本人は「お金をつぎ込むばかり」と苦笑いですが、何とか他の事業で利益を出してあげようといつしか私もパートナーの夢紡ぎのサポーターになっています。
河口容子