[08]罪

2019年4月29日

ごめんね、ごめんね、ごめんね、赤ちゃん。産まれたかったよね。生きたかったよね。産もうか迷ったよ。でもね、産まれても不幸にしてしまうと思ったの。産むならちゃんと育てたいから。許してね。ごめんね、ごめんね…。
私は授かった命を抹消してしまった。妊娠したら「産む」のは当然の事と思っていた私にとって、「産まない」事はとてもとても辛い選択だった。「妊娠11週です」と医師に告げられた時、「中絶」を決断したのは私自身だ。
夫は「どっちでもいいよ」と言った。だから現状で育てるのは無理と判ってはいたけど、私が専業主婦になって、家事も育児ももっときちんとこなせば、夫は必然と稼ぐようになるのかな、なんて夢も見た。
多重債務に陥って自転車操業しながら家族5人やっとこ暮らしてる状態なのに。夫は何とかするだろうか。夫の収入が倍になるなんて考えられなかった。どう考えても夫が我武者羅に仕事をするようには思えなかった。
だいたい夫が会社に行かなくなって、夫の実家のある東北の街に引っ越してくるはめになったのだ。夫は自分のしたい仕事をいつか始めるだろう、という私の期待をよそに家で寝転んで居るだけだった。ううん何かしようと試みてはいたけど結果は出せなかった。その間6ヶ月。借金で生活をまかなった尻拭いをしている最中の「妊娠」。
心がズタズタに引き裂かれる思いでいてもお金の問題は襲いかかってきた。手術費用が8万円位。「産まない」にしてもお金はかかるのだ。
お腹の赤ちゃんに詫びながら、当時セックスをしたがっていたメル友とセックスをして「貴方の子なの」と偽ってお金を出して貰う、なんて事も一瞬浮かんだりした。人間、せっぱ詰まったら何でもあり?駄目駄目そんなこと出来ない。結局、夫の実家で保証人になってもらい分割にしてもらったんだよね。
手術後は日の目を見れなかった赤ちゃんを想っては涙してた。息子のいる前でもわぁわぁ声をあげて泣いてた。「お母さんは赤ちゃんを殺しちゃったの。赤ちゃんごめんね、ごめんね」って。(息子はまだ小さかったので記憶に無いみたいです)謝りながら、今いる3人の子供達をちゃんと育てよう、不憫な思いをさせないように頑張ろう、って気持ちを奮い立たせてた。
あれから8年経ったけど、拭い去れない「罪」として私の心の中で息づいている。
山口ひとみ