[134]競業避止義務

企業の危機管理の一環として、退職社員による機密やノウハウ漏洩を防ぐために、競業避止義務を課する場合が多くなってきました。

企業の差別化が情報に依存する比率が多くなり、社員が退職後に同業他社へ就職したり独立自営した場合、会社のノウハウや機密がそのまま大量に外部に洩れることになります。そこで退職した社員には競合する会社に就職させないよう義務を課するわけです。最近では就業規則にこの競業避止義務を盛り込む企業が多くなってきています。

しかし、よく考えてみると、退職後にどういう会社に勤めようが、独立自営しようがそれは個人の勝手で、他人にとやかく言われることではありません。ましてや日本国憲法は、職業選択の自由を基本的人権の1つとして保障しています。

したがって、就業規則にどう盛り込もうが一般的に労働者は会社を退職すれば同業他社に就職しようが独立自営業を営もうが自由なわけです。

ではなぜ無駄な事項を就業規則に盛り込むのか?その真意は?

それは、もし労働者が競業他社に就職したことにより、それが理由で自社が打撃を受け多大な損害を生じた時に、その損害を賠償させるための予防策なのです。損害を与えた当事者として特定するため、事前に特約を結んでおくのです。根拠として就業規則に競業避止義務をとりあえず盛り込んでおく、というわけなのです。しかし、これには色々な問題を含んでおり、過去の裁判においてもまちまちです。

まず第一に就業規則は就業中に効果を発するものです。したがってその会社をやめてしまえば効力はありません。しかし判例では競業避止義務を課するにはまず特約が必要としているのです。

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「習得した業務上の知識、経験、技術は労働者の人格的財産の一部をなすもので、これを退職後にどのように生かして利用していくかは各人の自由に属し、特約もなしにこの自由を拘束することはできない」
(昭43.3.27金沢地裁判決「中部機械製作所事件」)
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これを受けて、まず競業避止義務を課するにはまず特約が必要、とうことで各社就業規則に盛り込むことになったというのがいきさつです。

次に競業避止義務を盛り込んだ場合、それが有効であるかどうかについてはこういう判例があり、「必要最小限で合理的なものなら有効」としているものがあります。

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「競業避止の内容が必要最小限の範囲であり、また当該競業避止義務を従業員に負担させるに足りうる事情が存するなど合理的なものでなければならない」
(平12.6.19大阪地裁判決「キヨウシステム事件」
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だからといって特約があれば、いつでも労働者に競業避止義務を課すことができるかというとそうはいきません。それには以下のように合理性が必要です。

1.競業避止の期間や地域、職種の範囲
2.使用者の利益と労働者の不利益とのバランス
3.社会的利害(独占集中のおそれとそれに伴う一般消費者の利益)を総合的に見て判断すべきものとしています
(昭45.10.23奈良地裁判決「フォセコ・ジャパン・リミテッド事件」)。

社員の義務違反に対する会社の対抗措置の例

1.競業の差し止め請求
2.損害賠償請求
3.信用回復の措置などの法的措置をとることができます。

これらの法的措置は、不正競争防止法という法律に定められたものですが、企業が行う対抗措置には、このほか退職金の不支給または減額措置があります。

最高裁の判例では、「この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であるから」、労働基準法の規定や民法第90条の公序良俗の「規定等に何ら違反するものではない」(昭52.8.9最高裁第二小法廷判決「三晃社事件」)と、退職金の減額を有効としています。

次回は、労働者側から競業避止義務違反に対抗する策を考えていきます。