[193]晴れの箸

お祝いの席やお正月など『晴れの日』でお客様をもてなすときに使う箸は利休箸などの両口箸です。両口箸とは端の両端を細く削ってある箸の事。なかでも利休箸は握りの部分は扁平で、握りやすさに配慮した形となっています。

千利休は茶懐石でお客様をもてなすとき、その日の朝に杉の木からお客様の人数分を一膳一膳小刀で自分で削ったとされます。杉の木の香りまでももてなしに使ったのですね。

利休は杉の木を使いましたが、世間一般では両口箸は柳の素材が最高とされています。春早くに芽吹く柳の木を使うのは、縁起が良く、心を清め、祝いの膳として節度を正す気持ちがこめられているからです。

『晴れの日』に使う箸を『晴れの箸』といいますがこれは両端が細い両口箸です。両口になっているのは、神様と人とが同じ箸を使い、共同飲食することで、神の魂を呼び込もうとの願いからです。片方を神が使いもう一方の端を人が使うのです。

よく大皿料理を取り分けるとき、両口箸を逆にして反対側を使う人がいますが、これは間違い。両口箸であっても使うのは一方だけ。取り箸が必要なときは別に用意しましょう。

今はあまり言わなくなりましたが日本には昔から『晴れ(ハレ)の日』と『褻(ケ)の日』があったのです。祭りとかお祝いの日を『晴れの日』といい、その他の普段の日を『ケの日』といいました。

年に数回ある『晴れの日』には、魚・餅・酒などのご馳走が食べられました。それ以外の『ケの日』には粟、稗、芋などを食べ質素に暮らしていたのです。『晴れの日』、『ケの日』を区別しメリハリのある生活をしていたのでしょうね。現在ではそのメリハリもなくなってしまいましたが、それでもなにかめでたいことがあった時には、赤飯を炊いたり、お正月にはお節料理などを用意するなどとして現在に至っています。

なお、普段私たちが使っている箸は片口箸でこれは『ケの箸』といいます。普段の日には神様はいないので片口箸で用が足りるというわけです。