第40回 ピアノ

2018年8月31日

こんにちわ、永礼盟です。ご購読ありがとうございます。

同時期にスタートした、たまごやプロデュースのメルマガ達が最終回をむかえていることが、とても残念でなりません。寂しいような、悲しいような、自分なんかがノコノコと、拙い文章を書いている事に、心狭くなる思いです。

我がホームに、ピアノが届きました。年代物で、ボロボロのピアノです。こんなんで、音が出るんかいや?そんなピアノでした。実際に、鍵盤をたたいてみると、それは、それは、無惨な音でした。

そもそもピアノが届いた理由は、他の施設で、いらなくなったピアノがあると聞いたからでした。職員の中に、音楽が出来る子がいたのですが、ハードがないことを、みんなで勿体ないと、話していた矢先に飛び込んできた知らせだったのです。

ピアノが届き、調律が始まります。それは、酷いなんてもんじゃないです。この時に、雑音って言う音が本当に存在する事を痛感させられました。ピョ~ン、ポヨ~ンと、鍵盤をたたくたびに腰が砕けるような音が鳴り響きます。気分が悪く鳴る音って、あるんですね。

段々、入居者も不穏になってきます。耐えかねて「ちょっとあんた!そんな音出したら頭が壊れちまうよ!そんな物、どっかに捨てちまえばいいんだよ!」そう言って、調律師に食ってかかるのです。だんだん、その雰囲気が広まり、ホーム全体がおかしな空気になっていきました。1人、2人、調律師に文句を言う人が増えていきます。その怒りはごもっともだと思いますが、怒りの鉾先向けられてしまった調律師の方に、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。罵倒され殴られ、蹴られ、不穏な空気を一手に背負ってしまったようです。職員も、この変な空気を止めることが出来ませんでした。

帰られる時、笑顔でホームを後にした調律師の方。我がホームにどんな印象をもったのかな?って思います。『音楽が訴えかける物って、凄い!』その考えからピアノを譲ってもらうことにしたのですが、まさかこんな幕開けとは誰が考えたでしょう?まあ、我がホームらしいと言えば、らしいのですが。

それ以来、誰もピアノを触っていませんでした。ピアノを触ろう物なら、入居者からクレームの嵐です。確かに、『音楽が訴えかける物って、凄い!』の世界でした。ピアノに近づこう物なら、その音を聞きたくないと言う気持ちが大きな形になって表れるのですから。

譲ってもらうと言っても、運搬料に調律料、結構費用はかかっています。今更捨てるわけにもいかず、大きなオブジェになってしまいました。この状況、誰が一番悔しいのかなぁ?って考えてみました。かなり人ごとだったので、自分は痛くも痒くもないですが、音楽でケアしたいと願う施設長が、一番悔しいのかな?って思いました。勿論、顔や言葉には出さないですが、勝手に自分が思っただけの話です。

こんな事で挫けるような人ではない施設長。新しい方法を考えるより、このピアノを使える方法を考えたかった。彼は、このピアノにこだわっていました。奏者がいて、ピアノもある。これを利用しない手はないだろうと。

我がホーム、一体どんな方法で、ケアに音楽を取り込んでいくのでしょうか?

2003.12.15

永礼盟