第4回-トイレについて(2)

2018年8月26日

前回、排泄について少し触れましたが、今回もその続きです。

父は、軽い脳梗塞の影響で、急激にではなく、少しずつ足の運びが悪くなっていきました。昔からお酒や睡眠薬を飲みすぎる癖があったので、家族の者は、また飲みすぎた…くらいにしか思えなかったのが、発見を遅らせた一つの原因です。けれど病院でCTを撮ってもらって、小さな脳梗塞の後が幾つもあるのがわかりました。

今更ですが、お酒や睡眠薬を止めさせられなかったのも、足が思うように動かなくなった時、気付いてすぐに病院に連れて行かなかったのも、家族である私たちの責任です。ですが、今の現状から脳梗塞に対して出来る治療法はないとの事、せめてタバコを止めてくださいと言われただけで、特別な薬も出してもらえませんでした。これは、もうこの症状と一生付き合っていくしかないという事です。

父の症状は、足が思うように動かないので歩く事もままならない。そして9年ほど前に骨折した右腕のリハビリがうまく行かなかったので、右手も不自由だという事です。今のところ、食事はフォークを使って左手で自分で食べられます。 ただ、やはり歩く事が出来ないという不安と、トイレの問題があって、ぱったりと外出しなくなりました。最初その話を聞いた時、私は「外出の時だけでも、オムツをしてもらったら?その方がお父さんも安心じゃない?」と言っていたのですが、問題は、便意の方にありました。

父の場合、便意があってトイレに座っても出ない事が多く、部屋に戻ると突然もよおして、トイレに座る間もなく出てしまうという事がありました。そうなると、例えオムツをしていても、着替えが必要になる事が多いので、ちゃんと出てからでないと安心して外に出られないようでした。

母曰く、「お父さんの頭の中はうんちの事でいっぱい」

トイレに行って出なければ、浣腸をしてでも出してしまいたい父ですが、それでも出ないときは出ない。私たちの感覚からすると、どうしてもよおした時に、トイレまで我慢する事が出来ないのか、不思議でなりませんでしたが、それも脳梗塞の症状の一つなのでしょう。長い間、よい方法は無いだろうかと、頭をひねっていましたが、その問題も意外と簡単に解決しました。

1ヵ月ほど前、ポータブルトイレを購入したのです。ベッドのすぐ横に置いてあるので、母が仕事や買い物で留守の時も、父一人で用を足す事が出来るようになりました。しかも、あんなに出ない出ないと言っては浣腸していたのに、最近では浣腸も使わなくなったと、母も喜んでいます。これは、トイレがすぐ近くにあることから来る安心感が、功を奏したとしか思えません。なぜもっと早く試さなかったのかとさえ思うくらいです。けれど、これも家族の切なる思いがあったからです。

ポータブルトイレは確かに便利。だけど体が動くうちは、少しくらい大変でもトイレまで行ったほうがリハビリになる。ベッドの横で用が足せるようになると、ますます動けなくなるのではないかという思いがあったからでした。

実際、今はよかったよかったと思っていても、父のためにはトイレまで連れて行ったほうが良かったのかなと思う時が来るかもしれません。本当のところどうなのでしょう。私にもわかりません。でも、今の父と母を見ていると、『やれやれ』と安堵の声が聞こえてきそうです。皆さん、どう思われますか?

渡部紗也
2005.02.11