【第14回】個別事例ケース~Yさんの実母~

2019年3月18日

天候不順な折、皆様、いかがお暮らしであろうか。昨日、ゆめのが、2年ほど前珍しくまじめに介護専門員として関わったYさんの実母さんが、老人保健施設で車椅子に乗りながら日々のリハビリに勤しんでいるとの便りが実息のYさんからメールが久々来た。こういう知らせは本当に嬉しいものである。

このYさんのお母さんは、脳幹出血にて自宅で倒れ、救命救急で一命を取り留めた方である。ICUにいた期間も長かったが、病棟に移されてからの状態もほぼ寝たきりで全介助の状態であったときにお会いした。一命を取り留めたが結果としては長らく言葉を失い、身体機能も寝返りも座位も保持できない状態であった。

まだ68歳という若さでもあり、周囲の回復への期待も多大なものがあった。本人も意識が戻ってから、言葉を発語できないもどかしさや自分の身体が少しも自分の意思どおりには動かない現実を長く味わうことになった。

最初は握り締めても握り返すことすらまったくできずに眼に涙をウルウルと浮かべる様子だった。すでにYさんをはじめ2人の息子はそれぞれ家庭を持ち、夫婦2人暮らしだった。まだ60代という若い夫婦にまさかこういう事態が襲い掛かってくるとは判断できなかっただろうと察する。

救急病院は急性期の手術や治療を本来の目的とした病院であるから、症状がある程度固定されて、栄養のチューブがはずれれば、退院していただくのが基本の病院である。脳幹部をやられると一般に嚥下機能も低下するためにほとんどの方に経口摂取が難しくなる。たぶんにもれず、Yさんの親も医師側から胃ロウの造設を強く勧められ、手術の日まで決定していた。

Yさん本人の気持ちからすると一日も早く自分の身体が回復して家に帰りたいわけだから、口から物を食べるという人間の本能の部分でとても欲求が強いことが断念されてしまう危険性は十分考えられた。

手術当日の日、たまたま理学療法士(注:なんせ外来で腰や膝に電気や温パックをあててまわっていて忙しくて人手は慢性的に不足しており、病棟へあがることすら珍しい、ドクターが呼ぶケースか、家族や本人が申し出るかしか来るはずのないリハビリ専門職)が本人の嚥下能力がわずかながらあることがわかり、手術そのものが直前キャンセルになった。

胃ロウは、胃に直接外から穴をあけて経路をつくり、外部から液体栄養の粉乳などを調合したもの調整乳をチューブで供給する栄養法である。鼻に管を胃までとおして液体栄養を流すいわゆる、経管栄養と、胃ロウとは患者さんの負担がずいぶん異なる。

経管栄養は常に眼の前にチューブが伸びていて不快であり、本人にはかなりのストレスになり、栄養チューブを寝ている無意識のうちに自分で引っこ抜くという事故があと絶たない。それを考えると胃ロウというのはきわめて患者さんの不快は軽減する可能性が大であるが、自宅に帰った場合、例えば入浴時のバイ菌の感染や消毒の手間隙を考えると経管栄養がいいのか、はたまた胃ロウがいいのかと一概には決めかねぬところである。それぞれ、脳幹部や延髄が損傷したときは、嚥下機能が一般に著しく低下することが考えられる。

こういう自己選択は確かに困るだろうが、それぞれの栄養法はメリット、デメリットがそれぞれありうるから、十分に本人?か家族がきちんとどういう生活や人生設計をたてるかによってどちらを取り入れるかは異なってくること明白である。

さて、Yさんの親は自身のプライドにかけて、双方をいやがっていたのは確かなのだが、決定権は家族にあり、またドクター判断で医療機関としてやらなければ、退院させるのが難しいのでどちらかを迫ってくるだろう。受け入れ施設、すなわち特別養護老人ホームや老人保健施設はいずれの処置を受けてもあまりウエルカムではない。特に特別養護老人ホームは夜勤の看護師がまず居ないので、夜間に管を引っこ抜かれると大騒ぎになる。

書き忘れていたが、鼻から胃にとおす、経管栄養のチューブの挿入や抜去は当然医療行為であり、医師の指導の下に看護師が処置するか、本人または家族が本人の代理ができるだけの話である。だから、介護職が夜勤の施設はあまり、管をつけた人は来てもらいたくないというのが本音であろう。今回は長くなってしまったので、話は次回に続けることとしよう。

2005.11.01