[111]現代の被差別部落民・派遣

2018年8月25日

派遣を書いたマーセナリーは前回で終わったはずだった。しかし、メルマガ発行後に俺は書き忘れがあることに気付いた。前回まではあくまでも派遣を雇用する側の視点で「なぜ派遣が良くないのか?」を書いた。しかし、派遣として雇われる側の視点も書くべきではないかと思い始めた。そこで今回は派遣で雇われる立場で語りたいと思う。
前回は施設側の立場で派遣を雇うことに関して俺は一貫して否定的だった。今回派遣として働く事も基本的には同じだ。派遣で働くなど、はっきり言うが自ら人間性を貶める行為に他ならない。前回も言ったが、派遣など組織内のヒエラルキーの一番下、江戸時代の被差別部落制度の穢多・非人と同じだ。
どうしても失業中でそれしか職がないなら仕方ないが、そうでないなら絶対避けるべきだ。よく「人間関係が気楽でいいから」「あまり特定の職場にディープに関わりたくないから」などよく訳の分からない理由で派遣を選ぶ人がいるが、そんな主体性のない理由で派遣を選ぶのは絶対止めるべきだ。余計な御世話だが、もっと真剣に自分のキャリアを考えた方がいい。かつて被差別部落だった人々はその身分から逃れる事ができなかったが、派遣はわざわざ自分から不利極まりない立場になろうとするなど不可解ではないか?
「ハケンの品格」などふざけたテレビドラマがあったが、派遣に品格などない。殆どの派遣社員は屈辱的な扱いを受けている。あのドラマは派遣を幻想的に見せて、搾取に苦しむ派遣を侮辱するものだ。派遣などただ単なる企業の労働力調整ツール、つまり人間ではなく消耗品として扱われるだけなのだ。
派遣で働くことのデメリットを説明しよう。どうして派遣で働くことに俺は強硬に反対するのか?その理由はいろいろある。
(1)収入が低い
(2)不景気になると真っ先に解雇される
(3)技術やスキルが身に付かない
(1)や(2)は説明不要だろう。(3)は前回も説明したが、派遣はろくな教育やトレーニングを受けさせずに業務をさせるために技術が十分に身に付かない。製造業の派遣でも単純な作業の繰り返しが多いためにスキルや技術が身に付かずにただ年齢だけを重ねることになってしまう。実を先ほど例えに出した穢多・非人の被差別部落民は人々が忌み嫌う職業を負わされていた。その分、彼らの存在価値は社会の中にあったが、派遣はそれがない。誰でもできる単純作業しかあてがわれない分、すぐに代用がいくらでも効く。ある意味、派遣は穢多・非人以下だ。
これらだけでも十分派遣が駄目な理由に十分だが、俺が強調する派遣に就業してはいけない最大で最悪の理由は次の一言に尽きる。
「下流から抜け出せなくなる」
どういう意味なのか?少し説明が必要だろう。一昔の高度経済成長期ならどんな仕事でもまじめに働けば最低限の文化的生活は謳歌できた。しかし、今は違う。今は派遣などで下流層に落ちてしまうとそう簡単に這いあがれなくなる。一億総中流と揶揄される事があったが、それはもう過去の話だ。日本に「下流層」が生まれていることは読者諸兄はよく存じているだろう。「下流社会」の話はもう書店に行けば十分すぎるぐらい参考文献が出ている。その下流社会に転落するきっかけの一つが派遣での雇用なのだ。そして派遣に転落するとそこから正社員に転職するのはかなり困難だ。俺が派遣を被差別部落の穢多・非人に例える理由はそれだ。現在は同和問題と言えば同和事業の不正や癒着を指すように部落差別など無いも同然だが、代わりに彼らのポジションは代わりに派遣が務めている。現代の被差別部落民が派遣なのだ。もう一度繰り返すが、派遣に落ちてしまうと下流からも派遣からも抜け出すことは不可能とは言わないが、かなり難しいと覚悟した方がいい。
事実、派遣社員で正社員への転職は相当難しい。なぜならどこの大手企業も福祉施設も派遣をまともなキャリアを見なさないからだ。第57号「転職者シリーズ(2)鎖国メンタリティ」でも分かるように正社員の転職者さえ、正当に受け入れようとしないのが福祉業界だ。ましてや派遣社員など面接に至ったらラッキーだと思った方がいい。例え派遣でも個人の能力や資格があれば、正規職員になれるのではという疑問は湧くかもしれない。だが、その疑問には逆に質問で答えた方がいいだろう。
「ではどうやって面接する側は派遣の求職者の能力を面接で知ることができるだろうか?」例えその派遣の求職者がとても優秀でもそれを面接官が30分くらいの面接で見抜くのは困難だし、ましてや殆どの面接者は相手の派遣だと言うだけで何らかの欠陥があると偏見を抱いてしまっている。面接官もサラリーマンだ。もし求職者を雇用した後にとんでもないトラブルメーカーだった時に「だから元派遣なんか入れない方がいいんだ」と非難されてしまう。だからそれまでの学歴や経歴に依存して、個人を見抜けない採用になってしまう。今の日本の雇用体系では能力があっても、派遣であるだけで正社員採用されない。だからこそ派遣に落ちてはならない。アンフェアでこれ以上ないほど下劣だが、これが日本の社会なのだ。
エル・ドマドール
【関連記事】
[110]マーセナリー(下)
[57]転職シリーズ(2)鎖国メンタリティ