第15回-ショートステイのたねさん

2018年8月26日

こんばんは、稲垣尚美です。梅雨は、どうしちゃったのでしょうね。このまま夏になっちゃうのかな。

ショートステイの常連さんのたねさんの話です。ショートステイは、普段は在宅で介護されてるのですけどたまに施設へお泊まりにいらっしゃいます。たねさんの場合は、一度の期間が1週間くらいの利用です。

たねさんは、95歳の高齢で腰がすいぶん曲がっています。90度近く曲がっている感じ。いつもおじぎをしてるみたいです。痴呆は、ありません。歩くのにふらつきがあるので移動は、車椅子。自分で上手に操作できます。でも、少々難聴気味。耳元で大きな声で話せば理解してくれます。

性格は、朗らかで優しい人。話しているといつのまにか時間を忘れてしまいます。冗談もたまに出てくる人なのに家庭の話になると暗くなります。それは、たねさんの家庭環境に明るい未来を本人も私達も感じないためです。

たねさんの介護は、70歳くらいの息子さんがしてるようです。その奥さんは、糖尿病で思うように体が動かないと聞いてます。息子さんにしても決して健康というわけではなく、いろいろな持病があるのだとか・・・

3人暮らしかと思いきや、40代のお孫さん2人も同居されてる様子。1人は未婚で、1人は離婚。5人暮らし。

たねさんは、自分が家族にとってじゃまだろうと線路に座りこんだこともあるとのこと。その時は、息子さんの奥さんに発見されたようです。「やはり世間体は、よくないからやめておく」と、たねさんは寂しい笑顔で言います。

家では自分の部屋からほとんど出てくることはないのだとか。食事も部屋へ運んでもらうようです。家族関係が悪いわけじゃないけど、家族にたいしてとても気を使っているのがよくわかります。テレビもない自室で何を考え、何をして過ごしているのでしょう。

施設にくると「ここは、いい」と言ってくれますが、やはり帰る日を心待ちにしているのは、態度からよくわかります。やはり帰りたい場所は、自宅のようです。

こんな高齢になって家族に気を使い、小さい体をますます小さくさせ、施設にくれば、施設の他の利用者、職員にたいして気を使う。

たねさんにとって一番居心地がいい場所は、どこなのかと考えてしまいます。

本人は、「はやく天国へ行きたい」と口癖のように言います。彼女にとって明るい未来ってないのでしょうか。

2002.06.11