第32回-入所する人の家族の思い

2018年8月26日

こんにちは、稲垣尚美です。うちの施設の周りは、みかん畑です。きれいにオレンジ色に色づいたみかんが、今にももいでほしいと言わんばかり鈴なりになっているのを毎日、見ています。

ショートステイをよく利用してくれる文絵さんのお孫さんの小百合ちゃんと高校時代からの親友です。文絵さんは、一ヶ月のうち、10日間くらい定期的にショートステイを利用してくれます。だから、文絵さんが、来所すると「小百合ちゃん、元気?」と親友のことを聞いたりしています。

文絵さんは、入所依頼が出ています。入所の空きを待ってる状態です。うちの施設は、80人常に満床です。たぶんどこの特別養護老人ホームも満床だと思います。空きを待っている人は、うちの施設は、200人くらいです。でも、この数字は、多い方じゃなく少ない方です。都市部の新しい施設などは、400人なんていう数字もざらにあります。

入所依頼を出す時点で介護認定を受けていなければならないので介護を要した段階で入所依頼を出します。それから何年も空きを待たなければいけないわけです。

だからも絵さんの入所順位が、だんだんあがってきたと知り、友人に「もうじき文絵さん、入所できそうだよ」と報告すると彼女は、ポロポロと大粒の涙を流しながら「私、本当はおばあちゃんに家にいてほしいの。でも、お母さんの苦労を考えるとそんなこと言えないの」

文絵さんは、孫の小百合ちゃんには、とても優しいおばあちゃんのようですが、嫁にあたる小百合ちゃんのお母さんには、厳しい人らしいのです。明治生まれの女性です。

といって、もう遠くへ嫁に出ている小百合ちゃんが、実家のおばあちゃんの介護をするわけには、いきません。小百合ちゃんも夫の両親と同居の身です。だから、おばあちゃんの文絵さんが、施設へ入ることは、お母さんの気持ちになって考えれば、しかたないかと理解できるようです。

嫁の立場と孫の立場。いつも一人の老人の入所にあたって周囲の人のさまざまな思いがあるのでしょうね。

2002.12.09