第30回 老人ホーム

2018年8月29日

こんにちわ。永礼盟です。ご購読ありがとうございます。

こないだ、テレビで老人ホームの特集をしているのを見かけました。なんだかホテルのようで、紹介されている数件のホームを見ると、とても夢のような感じでした。今、こんなスタイルのホームが増えているんでしょうね。

その綺麗な、豪華な物件と、介護用に作られたシステム。出演していたキャスターや俳優も、家事を一切やらなくて良いし、自分が入居したい等とコメントしていました。「宝くじが当たったら、何に使いますか?」と言う質問に、「老人ホームに入居して、気楽に老後を過ごしたい。」そんなコメントも聞いたことがあります。

老人ホームで働いている私が言うのもなんですが、本当に入居したいと思いますか?実際に、ホームでの生活を楽しんでいる方もいらっしゃいます。しかし、私が見てきた殆どの人が、帰宅願望を抱いています。その裏には、ご病気が影響している事もあるのだと思いますが、老人ホームの中で、自分の存在理由を確認する方が沢山いらっしゃいます。街頭インタビューで、「こんなに素敵なら、直ぐにでも入居したい。夫に相談してみようかしら?」そんな声を聞きました。確かに、ご病気もなく、旦那様と入居するなら、こんな天国はないでしょう。若い男女の職員が、ホテルマンのようなサービス。介護的なお世話。全てを賄ってくれるのです。我がホームも、どこかの街を行き来しているような若者達が働いています。

だから良いサービスが出来ると言うわけではなく、若さはパワーに繋がります。そのパワーは、入居者様に元気を与え、時に癒しを与えています。それは、きっと人間の残酷な節理な気がします。年老いて行くと言う事は、間違えなくやって来ます。出来たことが出来なくなるとき、急に自覚し始めます。私にも言える事であると思うのですが、前はこんな事をしても疲れなかったのに...例えは悪いかも知れませんが、同じ事だと思います。そんな時、自分を励ましてくれるのは、若さです。若くはなれないけれども、そのパワーは貰えるのです。

豪華なお部屋に、若いパワー。今ある、家事や雑用から逃れられると言う、「夢」のようなまやかし。じゃあ、なぜホテルのようではないの?それは、その空間がプライベートでないと言うことです。ホテルなら、その空間はそれぞれの物だと思います。しかし、老人ホームは違います。なぜなら、それぞれがそれぞれの理由を持って入居されています。ご主人様と、老後を過ごしたいと言う人達だけではないと言うことです。

ご病気をお持ちの方に、常識は通用しません。夜中に部屋をノックされ続け、睡眠が出来ないと言うこともあります。隣の人の大声で、ノイローゼになることもあります。時には、暴力を振るわれることだってあるのです。「じゃあ、お前ら職員が何とかしろよ!」そう言われるかも知れません。しかし、その方々も我々にはお客様なのです。ご病気で、何かしら不可解な行動をとられたとしても、夢を描いて入居されたご夫婦と動揺に接しなければならない。

ご自分の意志で入居されている方だけではないと言うことも理由の一つでしょう。家で見られないと言うのが、殆どの入居理由だと思います。ご家族同士ですら、なぜホームになんか入れたんだと言い争われる時があります。しかし、その入居者の状態を見れば、なぜ入居させたか解りますよね。直接関わらなければ、綺麗事で済まされます。しかし、徘徊癖のある方と一緒に暮らしていたら、介護者が参ってしまいます。我が家で暮らすのが理想だと思いますが、それが出来ないのも事実だと思います。

職員は、間違えなく皆親切です。これは、経験上間違えないことです。やはり、福祉を目指そうと思った瞬間に、志が自然とそうさせるのだと思います。同時に、どのホーム行っても言われる事は、申し訳なくて声をかけられない。と言う言葉です。一日中走り回っている。そのドタバタは、御入居にも嫌と言うほど伝わります。老人ホームに入居して先ず思うことは、職員数の少なさだと思います。

どのサービス業でも、お客様にそう思わせてしまっては失格だと思います。入居者数に、3対1の体勢しかとらない。本当にこの決まりが恨めしい。3対1って、その日に全入居者に対しての割合ではありません。トータル3対1と言うことです。入居者数が、20人なら、公休の職員、ナース、施設長、夜勤者、全てを含んでの割合です。昼間の時間に3人しかいない事はざらにあります。それでも、会社は1.5人多い人員体勢と言います。

テレビで夢のように描かれていた老人ホームですが、その理想を達成するには、まだまだ時間がかかるのかも知れません。

2003.09.28

永礼盟