第41回 ピアノ2
こんにちわ、永礼盟です。ご購読ありがとうございます。
我がホームに届いたピアノでしたが、古いことと、長い間使用していなかったことで、ピアノの音を出せなくなっていました。調律したのですが、その音が、入居者のクレームに繋がり、途中で断念してしまったのです。
共有部の片隅に追いやられたピアノ。とても寂しそうです。職員全員で、このピアノを生き返らせられないか?と、話し合いました。
もう一度、調律してみる事になりました。しかし、調律師は再びホームに来てくれるだろうか?不安を頂きながら、連絡してみると、快くOKして下さいました。
調律の間、共有部に入居者が来ないように、その間レクリエーションを行いました。1日の時間の中で、一番共有部に人が少ない時を狙って、調律を行なったのです。ポョ~ンピョ~ンと、相変わらずの音を奏でています。
「今日はここまでで帰りますね。」そう言われて、調律師は帰られました。時間にして1時間ぐらいでしょうか?レクリエーションにより、その音を聞かずに調律は行われました。まだ、微調整しなくてはいけない段階でしたが、それ以上の時間は許されなかったのです。
相変わらず、隅に追いやられたピアノ。彼は、どんな思いでこのホームを見つめているのだろう?相変わらずの光景が繰り広げられる我がホーム。ピアノを見ると、そんな思いがこみ上げてきます。
職員が、ピアノを開けてみました。タララタラ~ン。ピアノの音が鳴り響きます。「あれ?調律できているよ。」そう言って、デモンストレーションのような音楽が奏でられるのです。あれだけの雑音だったピアノが、今は誇らしげに歌っていました。
まだ完全ではありませんでしたが、ある程度の調律は済んでいるようでした。「別におかしくないよ。」ピアノを弾きながら、活き活きと発言する職員の姿がありました。
デモが終わり、ナツメロや、童謡を弾き始めます。「茶摘み」「東京ラプソディ」「リンゴの歌」「みかんの花咲く丘」音楽が奏でられるたびに、入居者の心が集まってくるようでした。なんとなく始まったピアノ演奏が、いつの間にか大合唱になっています。気が付くと、ホームの殆どの人がその場所に集まり、その時を共有しているのでした。
「懐かしいわね。」「音楽って良いわね」涙声で、入居者の訴えが聞こえてきます。やはり、音楽って凄いと思います。その曲達と、その時の想いに帰れるのですから。きっと、その音楽に、それぞれの思いがあり、その思いが涙になる。涙は、邪念を洗い流し、とても清らかな空気に変えてくれるのだと思います。
我がホーム、とても温かい雰囲気に包まれました。まもなくクリスマスですね。皆様の中にも、色々な企画があると思われます。我がホーム、きっとこのピアノが入居者の一人一人を感動させてくれることだと信じています。
年代物のピアノがくれた感動。あれだけみんなから邪険にされたのに。彼は、何も文句を言わずこの感動をくれたのです。本当に、音楽って凄い!
そして、諦めずに音楽にこだわったホームのスタッフ、入居者から殴られても、調律に来てくれた小暮社長。ピアノを譲ってくださった施設の方々。沢山の人達に感謝の気持ちでいっぱいです。感動させてくれてありがとう。
2003.12.23
永礼盟