今年は「日本ASEAN交流年」だというのをご存知ですか?昨年小泉首相が東南アジア5ヶ国を歴訪した際に提唱し、各国の支持を受けたものです。政治、経済のみならず、社会、教育、科学技術、文化、芸術を含めた幅広い分野での交流の促進を図ることが目的です。
私の世代は「欧米に追いつけ追い越せ」で育っており、欧米諸国へ製品を輸出することで外貨を稼いできました。個人的には東南アジアとの取引が多くなってきたのはこの10年くらいでしょうか、欧米に対する憧れとコンプレックスで板ばさみになり、時差も辛いと思うようになった年頃で、同じアジア人としての共感が持てると同時に多彩さも味わえ、時差も少ない、欧米に比べはるかに近いということで、最近はすっかり東南アジアの魅力にはまっています。
近いのに日本人は意外に知らないのがASEAN諸国でもあります。最近は観光で断片的に有名な所は多々ありますが、国としてそれぞれの特徴を識別できる人は少ないと思います。日本とASEAN諸国とのつながりは戦地というイメージもありますが、インドネシアの独立戦争を残留した旧日本兵たちも一緒に闘ったことやバリの段々田んぼは農村出身の日本兵によって教えられたものだという美しいエピソードも聞きました。
中国がばりばりの社会主義国家であった時代は、安い人件費と新しい市場を求めて日本からの投資がさかんだったASEAN諸国ですが、タイから始まった通貨危機を境に世界中が台頭著しい中国へ目を向けはじめます。私のビジネスを通じた人間観でいうと、中国人は米国人に近く、日本人はどちらかというとASEANの人々の方に近いと思います。もちろん個人差はありますが。
国家的にも大陸の大国を一対一で相手にするより、ASEAN諸国との方が与し易いはずです。ところが、WTO入りが決まったとたんの中国がさっさとASEAN諸国と自由貿易協定を結ぼうという話を始めてしまったので日本が大慌てをしている状態です。私は国際機関のお仕事をさせていただいている関係でASEAN各国の政府貿易促進機関とは親しい関係にありますが、彼らが中国市場に興味しんしんであることは確かです。3月末にはフィリピンが上海で単独の見本市を開きますし、私としても中国のある業界団体がASEAN諸国の見本市に出展するコーディネートをしているところです。
対日輸出という面から見ればASEAN諸国と中国はライバルのように見えますが、実はASEAN諸国は中国からかなり輸入をしています。逆にASEAN諸国から中国への輸出はまだ少ない。多彩さを生かしたビジネスは成長しつつある中国市場にも通用するはずです。
貿易がさかんになり、人が往来するということは平和や繁栄とつながります。「日本ASEAN交流年」が、不況で小さく固まっている日本人に少し視野を広げて考えたり、見たり、感じたり、行動したりする機会になればと祈ります。
河口容子