[130]アセアンのグッドデザイン

 グッドデザイン賞(Gマーク)アセアンセレクションの発表シーズンがやって来ました。グッドデザイン賞はご存知の方も多いと思いますが、戦後日本の産業振興策として通産省が始めたものでもう50年の歴史を持っています。単にデザインの良さのみならず、使い勝手や品質の良さ、企業姿勢をも加味した評価で、現在は食品と衣類を除いたあらゆるジャンルの製品、建築物に至るまで受賞の対象となっています。私は消費者にとって安心を、作り手にとって励みを得られるすぐれた政策だと思っています。アセアンセレクションはこの制度をそのままアセアン諸国の製品に適応し、各国へ審査員が出向いて審査を行なっています。
 私自身も日本での見本市へ参加する企業や商品の選択の仕事を何回かやらせていただきましたが、あくまでも対日貿易の促進という観点から仕事をしますので、日本の消費者のライフスタイルに抵抗なく溶け込めるもの、つまりアセアンらしい素材、モチーフ、技巧を使い、あるいは安らぎや懐かしさといった香りを持ちながら現代生活にマッチするもの、また、品質と買い求め易さのマッチしたもの、ビジネスをされる方にとっても少量多品種展開が可能で、まじめで前向きな経営者のいる現地企業という眼で選定をしています。


 ところが、グッドデザイン賞のほうはアセアンの贅と粋を尽くした商品がデザインの専門家の手で発掘されます。展示を見れば、買える、買えないは別としてアセアン製品というと「チープな土産物」のイメージしか持たなかった人たちにとっては仰天の連続となります。もともとアセアン諸国はほとんど欧米の植民地の歴史があり、欧米の王侯貴族やお金持ちのため、あるいは現地の支配者のための逸品を作るという技術を持っています。これは日本が戦後追いかけてきた大量生産でより安く均質の商品を作る思想とはまるで逆のものです。
 アセアン諸国へ対してのアプローチも日本と欧米オセアニア諸国では違いが見られます。日本企業のアセアン諸国での展開は開発輸入、つまり日本でデザイナーが日本市場向けの製品を考え、現地の素材や安い人件費を利用してものづくりをするという方式です。あるいは日本の技術を現地に移転して現地市場に販売する形式のビジネスです。一方、欧米オセアニア企業はデザイナーあるいは起業家たちが現地に住みこんで活動をしているケースが多いです。
 たとえば、私が以前やり取りをしていた米国人の若い写真家はバリ島でココナッツ石?を作る事業を立ち上げ、 100人の村人を貧困から救済しました。インドネシア人の養子を何人か迎えて彼らの才能も伸ばしています。また、他の外国人とコラボで事業展開もしています。日本方式のほうが合理的な気がしますが、よクリエィティブなものづくり、現地の人との草の根での交流を考えるとやはり欧米人にはかなわないと危惧する今日の頃です。
 このテーマに関連するエッセイは2004年 4月29日「アジアのデザイン事情」と2003年 9月19日「アジアのギフト」です。よろしければ、あわせてお読みください。
河口容子
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