[094]9プラス2

 最近の中国の発展には目覚しいものがありますが、ふだん中国と縁のない方にとっては、漠然と中国の国全体を地図で思い浮かべることができても、各省や主要都市がどの辺にあるのかほとんどわからない方も多いことでしょう。汎珠江デルタ経済圏、別名9プラス2、が中国政府の全面支援を受けて誕生したのをご存知でしょうか。9というのは広東省、江西省、福建省、湖南省、貴州省、四川省、雲南省、海南省、広西チワン族自治区をさしていい、2は香港行政特別区とマカオ行政特別区のことです。
 なんとこの地区の総人口は4億5600万人、広さは200万平方キロ、域内 GDPは約70兆円です。5月1日から25ケ国に拡大したEUに人口が匹敵、面積は半分に相当します。ご承知のとおり、広東省は中国の輸出の約半分を担うエリアです。また、昨年の中国の個人平均年収でもトップが深セン市、そして広州市、上海市、北京市、天津市という順序で、トップ2は広東省です。つまり市場としても有望で、隣には国際金融センターの香港を抱えるという条件に恵まれた新経済圏です。
 おまけに日本より先にスタートするアセアン諸国との FTAも中国はここを玄関口にしようと考えています。香港がアセアン諸国にいかに近いか、地図で確認されればおわかりでしょう。また、雲南省は山奥のイメージからアセアン諸国との貿易で一気に開けました。ラオス、ミャンマー、ベトナムと国境を接しているからです。この経済圏は陸路でもアセアン諸国とつながるのです。


 私の香港のビジネスパートナーはベトナムに工場を所有しています。もちろん空路を使いますが、年に何度もベトナムと香港を国内出張の感覚で往復します。また、貴州省の省政府ともジョイント・ベンチャーを持っていますので最近は貴州に張り付いていることも多くなりました。
 香港は本土返還とともにお株を上海にさらわれ、一時期経済が急降下したものの、以前このエッセイでも取り上げたようにCEPA (本土と香港間の経済貿易緊密化協定) の発効により、活気を取り戻しています。中国政府に泣きつくことにより経済を維持する反面、香港では民主化運動も強まっていると聞きます。確かにコンテナの取扱量では深セン港が香港港を抜くでしょうし、本土側に新空港が出来れば航空貨物の取扱量も本土に抜かれてしまうかも知れません。香港のアイデンティティをどう保つかが今後の課題ともなります。
 私自身は貿易の仕事を始めて29年目になりますが、ここ10年ほどは中国と ASEAN諸国を均等に注目してきました。現在でも中国エリアと ASEANエリアとれぞれ仕事をさせていただいております。 ASEAN諸国も将来 FTAで経済統合すれば 5億人の経済圏となります。私が起業したときのモットーは「貿易を通じて途上国の産業や日本の中小企業の発展に貢献する」というものでした。他人から見ればいろいろな仕事をしているように見えるかも知れませんがこの軸からずれているものは何ひとつありません。起業して5年目ですが、日本の周辺にはもはや途上国とは思えない国や地域がどんどん出てきたことも驚きであり喜びでもあります。
河口容子